私は15日の鳩山政権発足1カ月の成果[鳩山政権の政策の矛盾点]のブログで農家戸別補償制度制度は農村の生産性向上に逆行し→農村の弱体化を招くものだと書きました。
今日はこの問題に焦点を当てて考えて見たいと思います。
参照:農家戸別補償 生産性向上につながる修正を(読売社説)
「戸別所得補償制度」は本当に農家を救うのか(産経新聞)で記載された関係者の声
米作農家A: 「現実的に米余りと米価の安値にどう対応してくれるのか。」
米作農家B: 「一番の問題は米価が安すぎることだ。昔みたいに米だけ作って食っていけるように、農家が再生産を続けられるようにしてもらえないものだろうか」
米作農家C: 「今の米価なら機械を買うだけで赤字になる。整備代もかかる」
大規模米作農家: 「言い方は悪いが、手を抜いても国が所得を補償してくれるようなものだ。頑張って収量を上げると、所得補償の対象にならない懸念もある。低所得者に対する安全網だけでなく、努力した分は報われるようなシステムがないと生産意欲につながっていかないのではないか」
月刊誌「農業経営者」副編集長の浅川さん: 「最大の問題は、農産物の販売コストと販売金額の差、つまり『赤字額を補填』する仕組みであることだ」、「農家にとっては、赤字が増えれば増えるほど、国からもらえる金が増える。頑張らない農家でも手厚い補償を得られるのでは、健全な競争原理は働かず、日本は赤字農家だらけになる」
経済評論家の 大西良雄(経済ジャーナリスト)の戸別所得補償は高生産性農家をつくるか
・この制度は「社会政策」であって日本農業を衰退・滅亡から脱出させるための産業政策にはなっていない。
・0.1haの「販売農家」が政策の対象になる。そんな零細な農家を含めて1兆円(1戸当たり平均58.8万円)の予算が毎年ばら撒かれることになる。
・所得補償政策が実施されれば、老齢農家といえども小さな農地を売ったり貸し出したりする必要はなくなる。日本の農業が衰退から免れるための農地の集積による農業経営の大規模化、生産性の引き上げなどますます困難になる。
・日本の農業が狭い耕地面積に多くの農業関係者が群がる極めて生産性の低い衰退産業である。
北海道を除く都府県の農家1戸当たりの平均経営耕地面積は1.41ha、これに対してイギリス55ha、フランス45haと桁が違う。
・北海道の農家の47.6%が1000万円以上の農業収入をあげている(他の都府県は300万円未満が70.7%)。日本農産物の品質のよさを考えれば、北海道の規模まで1戸当たりの耕地面積を広げることができれば、日本の農業は国際的な競争力を持つことが出来ると考えている。
・日本の農業産出額は、8兆2000億円前後、農業就業人口は290万人にもなる。
それに(その約1割の)間接人員である農協役職員24.5万人が寄生している?。日本の農業を一個の会社とすれば間接人件費が大きすぎて利益など出せるわけがない。
・一部執行凍結がなければ、今年は8.2兆円の産出額を維持するのに実に3.6兆円の国民の税金が農業に支払われることになったのだ。 (原文のまま)
・毎年これだけ多額の税金を注ぎ込みながら、日本の農業の生産性はほとんど上がらず、1戸当たりの農業所得は増えるどころか減っている。所得が減るような産業に後継者が現れないのは当然。その結果、農業就業人口に占める65歳以上の高齢者の比率は60%にもなっている。高齢者が増えれば、耕作放棄地も増える。耕作放棄地は年々増加し平成17年で埼玉県の面積にに達している。
・日本の農業は衰退・滅亡の道を歩んでいる。後継者が続出するような高生産性農家に作り変えなければ、自給率などどんどん低下してくる。
・しかも、(各戸に直接給付する)制度では農家の生産量、販売量、販売価格、生産費を調べ、販売価格が生産費を下回った差額分だけ補償することになるから、きめ細かな170万戸農家の数字管理が必要になる。補償金を支払うための基礎になるデータ数字を、いったい誰が調べるのか。農協組織に調査費を払って下請けさせるのか。
[私の意見]
昨日、何時もの本屋で立ち読みで前記の「農業経営者」副編集長の浅川さんの論文を「WILL]で見ました。 (本屋さん、何時も立ち読みで御免なさい。)
それで浅川さんの意見(青字)も参照しながら私の意見も書いて見たいと思います。
・鳩山政権が狙う農家戸別補償制度の目的
上記の批評で明らかなように、農家戸別補償制度は農村の生産性向上や活性化より、社会保障の一貫のようです。
浅川さんはこの制度で農家の弱体化を図り、それでいつまでも民主党政権の補助に頼らねばならない状態にして、民主党政権の安泰化を図るものだと書いていましたが、私はそこまで行かなくても、多くの批評にあるような、選挙目当てのばら蒔き政策だけに過ぎないと思います。
・制度で唯一評価されている戸別支払い
この制度に就いてネットで調べてみると殆どが批判的ですが、批評家の中には今までのように農協などを通さずに直接各戸ごとに支払うのは評価すべきだと言っている人もいるようですが、浅川さんも大西さんと同じように農家への戸別所得の調査の膨大な人手を要すると反対しています。
・高齢者や稲作に不便な地域への配慮
上記の批評の中では、高齢者や棚田など耕作に不便な土地を持っている人達への配慮に就いて書いてありませんが、農村の効率化と上記の様な人達への配慮は別個に行うべきで、これを一つ戸別保障制度に纏めたので、訳の判らない制度になって仕舞ったのだと思います。
・農産物価格の決定システムの変更
農業従事者の悲鳴は安すぎる米価ですが、その根本は農産物の流通システムにあると思います。
前にも書きましたが基本的には、大手スーパーなどの一方的な価格決定システムにあるので、現在行われている産直方式の強化と、彼らに劣らない大きな経済力を持つ団体、例えば農協などが価格決定に参加すべきだと思います。
具体的には農協が妥当と決めた価格以上の価格で各戸ごとの取引は良いとしても、それ以下の価格での取引は農協の関与するようにすれば良いと思います。
販売側がそれならと言って安い外国米を輸入して、その結果国産米が負けるなら、基本的には自由競争の時代ですから値引するしかないと思います。
要するに価格と品質の競争です。
・農産物の質と農村の生産性向上
品質について大西さんは日本農産物の品質の良さを言っていますが、浅川さんは小麦では質の面でも外国産に劣ることをあげ、単純な補助金制度の害を批判していました。
日本は米の品質にに就いては(農協でなく)国立、地方団体の農業試験場で大きな成果を上げています。 (農協が生産団体としたら、ろくな自前の研究所も持たないのはおかしいと思います。)
小麦の品質が悪いのなら、農家への給付を削っても、その品質の改良に米やリンゴなどと同じように力を入れるべきだと思います。
工業製品の品質に就いては世界に冠たる力を持っていますし、その根本は日本人の完璧志向があり、日本の得意分野です。
また生産性向上についても工業分野では世界一のシステムを持っています。
この考え方を農業分野に適用できない訳はありません。
一年の内米作だけに半年しか使わない田んぼ、一年に一度しか使わない農業機械を各戸別に持つなど、生産性向上の観点から言えば、問題ダラケの農業生産システムです。(*注記)
・農村の構造改革
このためにはやはり若い力が必要です。棚田の耕作では一部の地域でやっているように、消費者を巻き込んだ運営が必要と思いますが、高齢者にこれを望むのは酷な話です。
そして上記の対策のためには大企業の参入か25万人のスタッフを擁する農協の圧力団体から株式会社化のような体質改善が必要となって来ます。
農協の体質改善は、民主・自民とも選挙絡みで、官僚制度以上に難しいと思いますが、何時かは何とかしなければ、農業の将来はないと思います。
・農家戸別補償制度が批判される本当の理由
全体的に言って、農家戸別補償制度がこれほど問題になるのは、その発想の原点は政権獲得のためのばら蒔きであり、鳩山政権の言う農村の生産性向上などは後で取ってつけた理屈でその弱点を新聞や専門家に突かれているのだと思います。
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*注記:昔の農村風景
年寄りがまた昔の話しを持ち出すのですが、少なくとも九州では、米と麦の二毛作が普通で、麦を作らないときはれんげ草で土地改良を図るか、菜の花を植えて油を取っていました。
そして畦には大豆まで植えてありました。
それが米作だけの田んぼを見るのが普通に成りました。
今後どう田んぼを活用するのか判りませんが、少なくとも昔のように田んぼを遊ばせないようにするのは高齢者では無理で、この点からいってもなんとしてでも若者の農村復帰できるような施策が望まれるところです。