【ある雨の休日。映画『山のあなた~徳市の恋~』を観た。】
この映画。故・清水宏監督が1938年に公開した
『按摩と女』のリメイク作品だそうである。
"心の入浴料"と題し、全国の劇場での1,000円興行だ。
「心の入浴料1,000円」。嬉しいフレーズだ。
映画評論家は佳作作品と評している。
私としては傑作作品、特上の映画だった。
◆分り易い物語だ。
温泉場で、子どもを入れて、謎の美女を囲む
四角関係である。コメディで始まり、ロマンスに変わり、
サスペンスとなり、切ない幕切れ。
1本の映画で4本分楽しめました。
◆素晴らしい環境だ。
緑滴る森林に囲まれた温泉。
紫陽花が咲き始めた季節の数日間である。
木漏れ日の林では杜鵑が、たっぷりと流れる
清流には河鹿蛙、カラコロと下駄の音等、
4chサウンド音響で聞く正しい日本の原風景だった。
◆長期滞在したい温泉旅館だ。
有形文化財級の日本旅館。開放的でプライバシー無し。
木立を通して隣の旅館の客室まで丸見え。
しかも、木立からは湯煙がふわふわ。
マイナスイオンが溢れかえっていた。
粗末で煤けた按摩宿もいい味を醸している。
いずれも凝った什器備品の数々。
◆魅力的な出演者たちだ。
徳市、福一など按摩たち。謎の美女。
高等遊民と隅に置けない悪ガキ。
何故か山の中なのに「鯨屋(旅館名)」の主人以下
感じのいい従業員たち。その他、みんなサマになり、
温泉場に溶け込み、タイムカプセルを開けたようだ。
◆レトロに、綺麗な着物だ。
謎の美女はもとより、旅館の女中たちの古風な
着物が鮮やかで美しい。
通りを下駄で歩く男たちの気侭な浴衣姿。
女学生たちのハイキング姿は可愛いく、
大学生たちのマヌケさには笑ってしまう。
◆失くなった昭和初めの風俗だ。
按摩の暮らし、お妾さん、高等遊民、男女学生、
温泉旅館など、いい時代だった。
私は、昭和の初めなど知る由もないが、
二度と帰らぬニッポンの風景と風俗。
最後は悲しい別れになるが、目の見える人に
負けない強さと女性への如才無さ。
最後の「おわり」のエンドタイトル。凄く良いわ。
1,000円で、温泉に1週間滞在したような
いい気分になれる映画でしたね。
私、またもや途中から涙で(涙の理由は不明。でも泣けた)
ぐちゃぐちゃ顔になってしまいました。(元々ぐちゃぐちゃ。)
しかし、この映画。原作本は無いそうですね。
故・清水宏監督が脚本を書き、それを昔の映画を細部まで
スタッフ全員で何度も観て、忠実に再現したそうです。
今の映画製作の技術力の高さに驚きましたね。
だってこんな温泉場。今、何処にも無いですもん。
帰宅後、ネットで探したら昔の作品を一部紹介するサイトが
ありました。勿論、白黒ですが出演者の顔も動きも
思わず同一人物かなと思いましたよ。
またもや温泉に行きたくなりました。一週間程の滞在で!
【この前行った温泉の足湯。私の足では無い。あしからず。】