アーネスト・ヘミングウェイの小説は、これまで数多く映画化されている。「老人と海」、「武器よさらば」といった有名な作品から、鬼才トニー・リチャードソンが監督した三十分の映画「白い象のような山」まで。
僕が初めて観たヘミングウェイの映画は、ドン・シーゲル監督の「殺人者たち」(1964年)だった。
トップ・クラスのレーサー(ジョン・カサヴェテス)は、ブロンドの性悪女(アンジー・ディキンスン)に熱を上げた末、事故を起こして選手生命を断たれる。女は失意の彼を、郵便強盗を計画するパトロン(ロナルド・レーガン)に引き合わせる。
彼がドライバーをつとめてまんまと百万ドルを奪取したのだが、レーガンとデキンスンはグルになってカサヴェテスを殺そうとした上、殺し屋リー・マーヴィンをさしむける―。
歩く暴力、全身これ暴力のマーヴィンの迫力もさることながら、のちの大統領の顔面にパンチをお見舞いしているカサヴェテスの不適な面構えには、とても強烈な印象を受けた。
原作は短編「ザ・キラーズ」。新潮文庫版「ヘミングウェイ短編集(一)」に収録されていた(現在は絶版)。
この本の中には「殺人者たち」の他に、もう二本の映画の原作があった。
一本は有名な「キリマンジャロの雪」(52年)である。狩猟にやっていたアフリカの奥地で、足の怪我が敗血症を起こしてしまい、すっかり投げやりになった小説家が自分の来し方を回想する物語。彼をめぐって三人の女性―エヴァ・ガードナー、スーザン・ヘイワード、ヒルデガード・ネフが登場する。いずれも美しく魅力的なヒロインたちだが、やはり非業の死を遂げるガードナーが一番強い印象を残す(まだキャスティングの序列はヘイワードの方が格上だ)。
もう一本は、「インディアン部落」、「医師とその妻」、「拳闘家」など、ヘミングウェイの分身ともいえるニック青年の青春彷徨をテーマにした、俗に「ニック・アダムスもの」と呼ばれる一連の短編集群を織り上げた「青年」(61年)。
主なキャスティングは、ニックがリチャード・ベイマー、その両親がアーサー・ケネディとジェシカ・タンディ、パンチドランカーのボクサーでポール・ニューマンが特別出演し、薄幸の恋人をスーザン・ストラスバーグが演じている。
変わりばえしない毎日にいらだち、ニューヨークへと故郷の町を飛び出したニックは、様々な人々と出会う―これが前半。
後半はかなりの部分「武器よさらば」と重複していて、ジェニファー・ジョーンズに相当するのがストラスバーグだ。彼女は病院が爆撃された際に死亡してしまう。除隊になったニックは故郷に帰るが、待っていたのは歓迎式典の馬鹿騒ぎと、優しかった父の自殺の悲報だった。相変わらず彼を子供扱いする口やかましい母。再びニックはニューヨークへ旅立つ-。
ところで、エヴァ・ガードナーは、三本のヘミングウェイの映画―「殺人者」(46年)、「キリマンジャロの雪」、「日はまた昇る」(57年)に出演、作者とも面識があった。
新人バート・ランカスターと共演したフィルムノ・ワールの傑作「殺人者」は、やはり「ザ・キラーズ」が原作で、前述の「殺人者たち」はリメイクということになる。ボクサー崩れのランカスターの空虚な心を虜にし、破滅させるファム・ファタール(宿命の女)が、彼女の役どころだ。
エヴァ・ガードナー自伝。表紙は「殺人者」のスチール写真だ。
ヘミングウェイと。
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