ミューズの声聞こゆ

なごみと素敵を探して
In search of lovable

このたびの東日本大震災で被災された多くの皆様へ、謹んでお見舞い申し上げます。

大震災直後から、たくさんの支援を全国から賜りましたこと、職員一同心より感謝申し上げます。 また、私たちと共にあって、懸命に復興に取り組んでいらっしゃる関係者の方々に対しても厚く感謝申し上げます。

狩り

2017年01月16日 | 日記
 ナブクは北の方の小さな部族の族長の息子に生まれた。
他の子どもたちと違って体が弱く、マンモスやバッファロー、ヘラジカなどの肉のかわりに母親が炊いた麦の実や海草が主食で、いつも青い顔をしていた。
そんな息子の行く末について、族長は胸を痛めていたし、男たちはひよわなナブクをあからさまにあざけった。
 13歳になったナブクはある朝ひとりで森へ行くと、昼前に小走りで帰ってきた。
父親に、ヘラジカを捕まえたので手を貸してくれという。
半信半疑の族長がついて行くと本当に壮年期の大きなヘラジカが、小さな落とし穴に前足を突っ込んで倒れていた。
穴に落ちてもがくヘラジカの頭をこん棒で叩いて絶命させたのだという。
父親は感心してナブクの頭をなで、それから運搬の手伝いにと屈強な男たちをもう4人、呼びに戻った。
 ナブクは15歳になると同じ要領でマンモスを獲った。
ヘラジカにしても、マンモスにしても、巨大なうえに獰猛で、狩りをするたびけが人や死者が出ていたものだから、ナブクの安全なやり方にみなは一様に感謝した。
また、ナブクは肉を食べなかったから、獲物を平等に分けた。
それも部族の者たちにとっては初めての経験だった。
 ナブクは女たちにマンモスの牙を材料にして、首飾りや髪飾りを作らせた。
そんな彼の部族の評判を聞きつけて、まわりの集落から老若男女がどんどん集まり出した。
 けれども、それをねたむ者もいた。
彼を子供のころからなにかと目の敵にしていた男がある晩、石斧で背後から襲いかかり、惨殺してしまった。
不思議なもので、それからというもの、ナブクが指揮していたとおりに狩りを行なっても、マンモスもヘラジカも、一向に獲れなくなった。
また、狩りのあとには決まって取り分をめぐる争いが始まった。
さらには、入り江へ追い込んだクジラに丸太船が5隻すべて海中に引きずり込まれるという惨事も起こった。
こうなると、ひとの気持ちが離れるのは早い。
少し前までは賑やかだった集落を、われ先にと逃げ出した。
ひと気のなくなった集落はある夜、失火から全焼し、すべてが土に還った。
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