NPO法人なごやかの理事長はどう考えても働き過ぎだ。
当の本人も自覚があるらしいのだけれど、時々、もっと仕事がしたい、と独り言を漏らしては周囲をあ然とさせている。
ある時、隣市で開かれる大きなセミナーの演者として招かれ、数日前から徹夜続きで資料やスライドを準備していたのが、折悪しく当日の午前中に長くホームに入居されていて亡くなった利用者様の葬儀が決まると、強行軍覚悟で参列する、と言い出した。
午後からのセミナーは隣市にあるなごやか施設の職員たちが何名か聴講することになっているので、葬祭会館で自分を拾い、セミナー会場まで届けてくれないか、との依頼を私は受けた。
当日。葬儀が予想より大幅に長引き、大きなガーメントバッグ(衣装ケース)を抱えた理事長は私が待つ車の後部座席へ滑り込むようにして乗り込んだ。
ここから会場までちょうど一時間、集合時刻まではほとんど誤差の範囲だ。
私は真剣にハンドルを無言で握り続けた。
30分ほどたったころ、理事長が口を開いた。
焦らせるつもりはないけれど、到着はぎりぎりになりそうなので、申し訳ない、今から上だけ着替えさせてはくれないだろうか。
この申し出には少し驚いたが、確かに会場に着いてから着替えている時間はなさそうだ。
私は努めて冷静な声でどうぞ、構いません、と答え、バックミラーを動かした。
なんとか間に合って会場の玄関に降り立った理事長は淡いピンクのシャツに千鳥格子のジャケット姿で、礼服の黒いズボンと合わせても全く違和感はなかった。
そのまま本番に臨むのだな、と思った。
大きく手を振る理事長を残して私は帰路に着いたのだが、不思議だったのは、狭い車の中で男性が着替えているというのに、自分がドキドキしなかったことだ。
これを言ったら理事長は傷つくだろうか。
あるいは、僕はきみの父親みたいなものだからな、と苦笑いするだろうか。
そんなことを考えては、毎回くすくす笑ってしまう。
大震災直後から、たくさんの支援を全国から賜りましたこと、職員一同心より感謝申し上げます。
また、私たちと共にあって、懸命に復興に取り組んでいらっしゃる関係者の方々に対しても厚く感謝申し上げます。