今年もまた、「社会人として出発する諸君におくる先輩のことば」という、卒業シーズンに合わせた企画広告を、地元紙から依頼された。
僕の他には、市内の名士や有力経営者の方々が20名ほど名を連ねていて、なぜオファーが回って来るのかよくわからない。
その方々の昨年のはなむけの言葉に目を通すと、「前途洋々」、「万事如意」、「一生勉強」、あるいは「和を以て貴しとなす」などとあり、若干苦笑させられた。
僕は意外なくらい迷った末に昨年同様、いつも相手を励ます時に使うフレーズに決めた、「自信と誇りを持って」と。
ローラ:わたし、きれいって、どこが?
ジム(紳士の訪問客):どこでも―眼もと、髪の毛。きみの手―きれいだなあ! 僕が、お世辞を言ってると思ってますね、きみは―ご馳走になったんだから、お礼のつもりだろうってんですね、そりゃあ、僕だって、お世辞も、言いますよ! 心にないことを並べ立てもします。しかし、今夜は、ちがいますよ―心から、言ってるんです。きみには、例のインフェリオリティ・コンプレックス(劣等感)ってやつが、ある―さっき、気がついて、言ってあげましたね―そいつがあるから、人と気がるに附き合えないんですよ。だれか、きみに、自信をつけたげなくちゃあ―うんと、自分を、高く買うように―うんと、高く!
《ローラの体を差しあげて、小卓の上に立たせる。》
そんなに、恥ずかしがったり、目をそらしたり―あかくなったりしないように、誇りを持たせてあげる人間が―だれか―いなくちゃあ。
テネシー・ウイリアムズ作「ガラスの動物園」(田島博訳、新潮文庫刊)
「ガラスの動物園」(1950年)、カーク・ダグラスが紳士の訪問客(ジェントルマン・コーラー)を演じている。