ミューズの声聞こゆ

なごみと素敵を探して
In search of lovable

このたびの東日本大震災で被災された多くの皆様へ、謹んでお見舞い申し上げます。

大震災直後から、たくさんの支援を全国から賜りましたこと、職員一同心より感謝申し上げます。 また、私たちと共にあって、懸命に復興に取り組んでいらっしゃる関係者の方々に対しても厚く感謝申し上げます。

夢十夜(七)

2025年03月03日 | 珠玉

 今日は彼とドライブに出ていた。

まだ夕食には早かったので、通りかかった小さな町の記念館を見学することにした。

なんでも古い豪商の邸宅を改装したとのことで、今月は雛飾りの企画展が催されていた。

広い座敷には新旧たくさんの雛飾りが並べられている。

入り口で手渡された案内リーフレットから目を上げると、彼は座敷の奥の方で立ち尽くしていた。

「どうしたの?」

「うん、この女雛がね、、、素敵だな、と思って、、」

あはは、古い女雛に魅了されたのね、と私は笑い、お手洗いに行ってくるのでゆっくり眺めていて、と言い置いてその場を離れた。

 ところが、売店を冷やかして戻ると、彼の姿が見えない。

邸内をくまなく探したが、いない。

心音が早鐘のように鳴っていた。

もう一度座敷に足を踏み入れ、彼が立っていた場所まで来た私は悲鳴を上げた。

細面の女雛が私の目を覗き込むようにして笑みを浮かべたのだ。

そして隣の男雛は、まぎれもなく私の彼だった。

 

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