「これまで建設した中で最大の施設の開所式を終え、来賓や応援の職員を送り出すと、急に静寂が訪れた。
開所はゴールではなく、スタートだ、明日からしっかり施設運営を頑張ろう。
そう自分を鼓舞しながら、ふと後ろを振り返ると、グループホーム虔十のY管理者が一人立っていた。
大変な盛況でしたね、おつかれさまでした。
親身なねぎらいの言葉をもらってやや感傷的な気分になった僕は、彼女を促がし、改めて施設内をくまなく案内した。
新しい工夫や既存の施設から持ち込んだノウハウを簡潔に説明するたび、勝手を知る相手からは的確な感想や質問が返ってきた。
歩きながら、あるいは立ち止まって、そんなやり取りを重ねているうちに、妙な既視感に襲われた。
これはいったいなんだったろう。
思い出せないまま、Y管理者を見送った。」
「その夜、思い当たった。
20年以上前に観た、NHKのドキュメンタリーシリーズ「ルーブル美術館」(1985年放映、全13回)だ。
日英仏の有名俳優の男女一組が各回の案内役を務めるという、バブル期の入口に作られただけある豪華な内容だった。
とりわけ第3回(と第10回)は大問題作「愛の嵐」(1977年)で共演した名優ダーク・ボガードと名花シャーロット・ランプリングが出演しており、よくこの企画が通ったものだとめまいがした。
この二人がサモトラケのニケ像やミロのビーナスについて対話しながらルーブルの館内を巡る。
本当に素敵だった。」
「愛の嵐」より
第10回