今日は彼とドライブに出ていた。
まだ夕食には早かったので、通りかかった小さな町の記念館を見学することにした。
なんでも古い豪商の邸宅を改装したとのことで、今月は雛飾りの企画展が催されていた。
広い座敷には新旧たくさんの雛飾りが並べられている。
入り口で手渡された案内リーフレットから目を上げると、彼は座敷の奥の方で立ち尽くしていた。
「どうしたの?」
「うん、この女雛がね、、、素敵だな、と思って、、」
あはは、古い女雛に魅了されたのね、と私は笑い、お手洗いに行ってくるのでゆっくり眺めていて、と言い置いてその場を離れた。
ところが、売店を冷やかして戻ると、彼の姿が見えない。
邸内をくまなく探したが、いない。
心音が早鐘のように鳴っていた。
もう一度座敷に足を踏み入れ、彼が立っていた場所まで来た私は悲鳴を上げた。
細面の女雛が私の目を覗き込むようにして笑みを浮かべたのだ。
そして隣の男雛は、まぎれもなく私の彼だった。