私がまっすぐ歩いて行くと、彼は身を縮めながらおどけた調子で言った。
ハグは苦手だな。
ムッとした私は右手で彼の上着の衿を掴み、ぐいと前に引き寄せた。
不意を突かれてバランスを崩した彼は見事なくらいべったり地面に這いつくばった。
少しの間見下ろしていたが動く気配がないので私は立ち去ろうとした。
すると、彼はうつぶせのまま手を伸ばし、私の足首を掴んだ。
そんなに怒らなくてもいいじゃない、世の中にはハグが苦手なひとだっているだろう。
でも、これからは心掛けて、会うたび握手をするから。それで大目に見てはくれないかい。
彼の必死さがくぐもった声ばかりでなく、握力からも伝わってきて、私は申し出を受け入れることにした。