電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

堤未果『ルポ 貧困大国アメリカ』を読む

2009年01月24日 06時43分55秒 | -ノンフィクション
第56回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した、堤未果『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)を読みました。娯楽的な要素が強い文庫本と比べて、新書の場合は実用性や知的な新鮮さを感じますが、本書もその例にもれず、たいへん刺激的な内容でした。

第1章 貧困が生み出す肥満国民
第2章 民営化による国内難民と自由化による経済難民
第3章 一度の病気で貧困層に転落する人々
第4章 出口をふさがれる若者たち
第5章 世界のワーキング・プアが支える「民営化された戦争」

第1章の貧困と肥満の関係は、よく理解できます。重労働に従事するからこそ、腹一杯たべなければもたないという食習慣と、フードスタンプによる高カロリーとが、病的な肥満に導く傾向は否めないでしょう。
また、第2章のハリケーン「カトリーヌ」がニューオーリンズにもたらした災害の大きさとその復旧にかかる費用を思うとき、かの地の、治水や防災を民営化するおろかさを、つくづくと感じます。
第3章では、一家の働き手が病気に倒れたとき、若い頃に我が身のこととして体験したように、家族が遭遇する困難の甚だしさを思うと、問題だらけの日本の医療制度のほうが、まだましであると感じます。それは、医療現場に働く人々の自己犠牲によってようやく成り立っている面が強いのでしょうが。
そして、第4章、奨学金制度の予算を削減することが軍隊への入隊者を確保することにつながるという、経済的徴兵制の現実。高等教育が負債に転化するといういうのは、米国の若者にはずいぶん酷な話ですが、日本では親の負債となってのしかかっているのでは?と思います。負担してくれる(負担できる)家族や保護者がいる場合はまだよいのですが、経済格差が教育格差を再生産する仕組みは、たしかに社会の安定にはつながらないでしょう。
第5章、「戦争の民営化」にはドキッとしてしまいました。軍隊の役割をどんどんアウトソーシングしていけば、たしかに戦争がビジネスとして成り立ってしまうわけです。愕然とする現実です。

民営化というと、非効率なお役所仕事が民間企業のノウハウと活力で劇的に改善される、というような印象を持ってしまっておりましたが、社会の安定と国民の幸福のためには、民営化すべきでない分野がたしかに存在するのだな、と感じました。これまでの『居眠り磐音江戸双紙』シリーズから一転してやや硬派な読書でしたけれど、たいへん面白く興味深く読みました。
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