電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

藤沢周平『小説の周辺』を読む~藤沢周平とクラシック音楽

2009年01月03日 09時09分35秒 | -藤沢周平
藤沢周平の随筆は、ごく真面目なものもあれば、少々はにかんだようなもの、あるいはごくユーモラスなものなど、たいへん面白いものです。文春文庫の『小説の周辺』には、藤沢ファンには実に興味深い文章が収録されています。たとえば、初期の暗い内容の小説が『用心棒日月抄』あたりを契機に読者を楽しませる明るさを持つようになった経緯を綴り、作者自身が作風の変化を語る「転機の作物」や、明年の大河ドラマの主人公となる直江兼続を描いた『密謀』執筆の動機を説明する「『密謀』を終えて」などです。
小説の関連だけでなく、作家の日常や身辺の話題、回顧なども面白く、付箋をしながら読みました。私の興味からすると、藤沢周平とクラシック音楽との関わりなどが考えられますが、実は本書中でクラシック音楽に触れたところが3ヶ所あります。

(1)「歳末の身辺」で、チャップリンの映画「独裁者」中の、ハンガリー舞曲第5番。
(2)以前、一度取り上げた(*)ことがある、師範学校時代の同級生を回顧した「ボレロ」。
(3)「芝居と私」で回顧する、田舎の中学校の教師時代に書いたラジオドラマのBGMに使った、チャイコフスキーの「カプリーチョ・イタリアン」(イタリア奇想曲)

こうして見ると、音楽的嗜好には多分にSP時代~LP初期の雰囲気を感じます。少なくとも、ワーグナーの長大な楽劇に入れあげたり、ブルックナーやマーラーに心酔するといった風情とは縁遠いような気配。娘さんの回想にあるとおり、スティービー・ワンダーの「心の愛」がお気に入りだったことなどを考えると、旋律や響きがきれいでわかりやすく、リズムが軽快で、あまり長くない作品を好んだのではないか、と想像しています。

(*):ラヴェル「ボレロ」と藤沢周平~「電網郊外散歩道」
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