電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

磯田道史『天災から日本史を読みなおす〜先人に学ぶ防災』を読む

2019年08月11日 06時05分43秒 | -ノンフィクション
2014年11月刊行の中公新書で、磯田道史著『天災から日本史を読みなおす』を読みました。「先人に学ぶ防災」と副題がついており、「まえがき」にはイスキア島の地震で救出され、後に世界的な歴史哲学者になったベネデット・クローチェのエピソードから、「現代に生きるために過去をみる」という立場を宣言します。うん、賛成。地震で生き埋めになったり津波で流されたりしているときに「我思う、故に我有り」などとノンビリしたことは言っていられません。生は理性に先行し、「我有る故に・我思う」(p.iii)のですから。

本書の構成は、次のとおりです。

まえがき〜イタリアの歴史哲学者を襲った大地震
第1章 秀吉と二つの地震
 1 天正地震と戦国武将
 2 伏見地震が終わらせた秀吉の天下
第2章 宝永地震が招いた津波と富士山噴火
 1 一七〇七年の富士山噴火に学ぶ
 2 「岡本元朝日記」が伝える実態
 3 高知種崎で被災した武士の証言
 4 全国を襲った宝永津波
 5 南海トラフはいつ動くのか
第3章 土砂崩れ・高潮と日本人
 1 土砂崩れから逃れるために
 2 高潮から逃れる江戸の知恵
第4章 災害が変えた幕末史
 1 「軍事大国」佐賀藩を生んだシーボルト台風
 2 文政京都地震の教訓
 3 忍者で防災
第5章 津波から生きのびる知恵
 1 母が生きのびた徳島の津波
 2 地震の前兆をとらえよ
第6章 東日本大震災の教訓
 1 南三陸町を歩いてわかったこと
 2 大船渡小に学ぶ
 3 村を救った、ある村長の記録
あとがき〜古人の経験・叡智を生かそう

この中で、天正地震で秀吉方の先陣をつとめるはずの武将たちが城と領地に大きな被害を受けたために、徳川家康との決戦を回避し、家康にとってはラッキー!な事態となったことなどは、お天気が味方したのと同じ、偶然性の要因でしょう。むしろ、歴史上の有名人が登場しない、津波や噴火などの記録のほうが、興味深いものがあります。例えば宝永四(1707)年の富士山の噴火の記録。秋田・佐竹藩江戸屋敷で、幼い藩主の守役が記した「岡本元朝日記」には、不気味な振動が四日間、昼も暗くなるほどの降灰が12日間続いたことが記されているとのことです。降灰がやんだ後でも灰に悩まされ、砂で目を痛めたとの記述がリアルです(p.57)。土砂崩れ、高潮、巨大台風、溜池の決壊など、いずれも現代に通じる災害の様子です。古文書に遺された記述は、いずれも貴重な情報です。

東日本大震災にともなう大津波で、福島第一原発はメルトダウンに至ったのに、宮城県の女川原発はかろうじて最悪の事態を免れることができた理由について、学生時代の記憶から、古文書に残された慶長津波の記録に基づき、海面からの高さを高めに設置した判断によるものと推理(*1)しましたが、私の推測が正しければ、まさに古文書の情報によって現代人が救われた好例と言ってよいでしょう。大事なことだと思います。

(*1):女川原発と福島第一との違いは古文書にある慶長津波の評価にある?〜「電網郊外散歩道」2011年4月



今日は、午後から天童市民文化会館でビゼーの歌劇「カルメン」を観る予定。楽しみです。


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