電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

記憶に残る学生時代の課題レポート〜あの問題が良かった(2)

2022年06月25日 06時00分50秒 | Weblog
昨日の続きです。
動物の産卵数と卵径をグラフにしてみると、いくつかの傾向が浮かび上がります。

  • 海産魚類では、小さい卵を多く産むことで、食物連鎖による捕食から生き残る確率を高めているものが多い。ただし、海藻に産み付けるなど産卵場所を限定することで、産卵数を抑えているものもある。
  • これに対し、サケ類のように産卵場所を淡水である河川に求め、栄養の多い大ぶりの卵を産むことで稚魚の運動能力が高まり、生き残る確率を高めているものもある。
  • 河川に生育する淡水魚類でも、フナやコイなどと比べて営巣行動を行うトミヨ(トゲウオの一種)やカラスガイの体内に産卵するタナゴなどは、卵や稚魚を保護することで大きめの卵を少なく産みながら絶滅を免れているのだろう。
  • 海産魚類でもアカエイやノコギリザメなどの軟骨魚類は卵胎生なので、大卵少産となっているが、これも稚魚の保護という点で共通と考えられる。
  • トノサマガエルやモリアオガエルなどの両生類は、全体の中では中卵中産の部類で、ゼリー状の粘膜により卵が孵化し幼生が泳ぎ出すまで保護するが、窒素代謝の産物を排泄する際に多くの水を必要とすることから、水の環境から離れることができない。
  • 爬虫類、鳥類に関しては、窒素代謝の産物を水に不溶な尿酸の形で卵殻内に蓄積するため、陸上に産卵することができる。このため、より多くの栄養を蓄えておける大卵少産の方向に進んだ。
  • 哺乳類は、排卵後に母体内で成長するため、卵が栄養を蓄えたり排泄物を希釈あるいは蓄積する必要がない。このため、魚類から両生類、爬虫類、鳥類に見られる「小卵多産〜大卵少産」の分布から大きく外れ、小卵少産を実現した。
  • 同じ鳥類でも、人間社会との距離が近いスズメが比較的大きめの卵を少なめに産むなど営巣場所の影響が見られたり、集団で社会生活を営むなど幼生の保護行動が発達している場合も、同様の傾向が見られる。

これらを総合して、次のように結論づけました。

動物の産卵数は、小卵多産と大卵少産とを種の基本的な生き残り戦略としながら、産卵場所を海から淡水、陸上へと変化させたり、卵や幼生の保護行動を発達させる形で適応している。この背景には、窒素代謝の最終産物をアンモニアから尿素あるいは尿酸へと変化させるなどの生化学的な進化が関わっている。

自分でも納得できるものでしたし、集めた多くのデータを総合する形での結論でしたので、自信もありました。残念ながらレポートは返還されず、評価を知ることはできませんでしたが、今でも思い出すことができるということは、かなり影響を受けた課題だったということでしょう。もしかしたら、「与えられたテーマ(魚類)の範囲を勝手に広げて答えているので減点」などということがあったのかもしれませんが、ほぼ半世紀を経た今、学生に考えさせるという点で「与えられた問題が優れていた」ということを感じます。たぶん、インターネットが普及した現代では、中高生でも自分なりに調べ考えることはできるはず。易しいけれど本質的な「問い」の持つ力かもしれません。



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