志情(しなさき)の海へ

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アトリエ銘苅ベースで開催されている「最強の一人芝居フェスティバル」、5人の俳優が力演でした!

2022-04-17 01:47:47 | 沖縄演劇



物語の筋書きで泣かせたのが犬飼憲子演じる「一粒の砂の奇跡」(作北川彩子、演出沖直未)。中年のまちこさんが星砂を選別している。まちこさんは猫と暮らしている。質素に、他人とあまり交わらないように、そして彼女の人生の彩どりが、物語の終盤に明らかになる感動のエンディングだった。かつて、5歳の一人息子と無理心中を未遂したまちこさんだった。しかし咄嗟に息子を突き飛ばし、一人踊り場〈ベランダ?)から飛び降りたのだった。

それ以来、世を憚って生きてきた。息子に合わせる顔がなかった。しかし、成長した息子は母親を探し求めてきたのだった。と書くと、筋書きが単純に思えるが、そうではない。なぜ星砂なのか、それが生かされている奇跡の物語。犬飼さんは、いかにも世に拗ねたようなおばさんを演じたが、感情の起伏の激しさや彼女の贖罪感と息子への愛情が涙腺を緩くした。三線の音色も情感を誘った。

招待の葉山太司の「そのころ」も小さな奇跡の物語、その頃、多くの人々の様々な人生が繰り広げられていた、その中に重なる物語があった。そこでは天使がいて花火が打ち上げられた。不幸も悲しみも怒りも、嘘もホントも、リアルも虚構も喜びも波打っている。存在そのものが不思議に満ちていること、生きていることへの賛歌であると同時にスリリングな悪夢も同居する生の偶然と必然、そして奇跡のような物語が語られる。そのころ、恋をした山下さんは天使と出会い、花束を手渡すその時花火があがり、そして恋人を失った若者は「幸せ」なカップルに敵意をむき出しにしていた。「そのころ」で多様な人生の営みが並列に語られるが、それぞれの物語が重なっていくような語りは見上げる花火の一瞬の空中の美しさに収斂していくようでもあった。

人生は花火のように美しく、はかなく、夢幻で、消えていくのかもしれない。しかしその一瞬が100年でも20年でも、それは尊い命の物語なんだ。

宮川雅彦の「時空の旅人」は認知症をテーマにしていたが、時間の流れが逆立ちするように、人は自由になれることを示している。記憶は幻影はいつでも共に存在している。語りかけることのできるもう一人の自分がいるかぎり、旅は道連れがいて耐えられるもかもしれない。

山内そうけんの「新世界」、メタバースとリアルな現実(日常)との落差が描かれるが、仮想空間がこの世界をひたひたと襲っていることは事実なのだ。仮想空間と日常の往還を生きている現実を照らしている。アバターになって、ゲームの開発者になってゲーム空間を泳ぎ、恋をする。その物語の中に投影されたコピーされた自らを生きることは、当惑をもたらした。

おそらくこの5人のバトルの中で異色で特異な劇空間を演じたのが新垣七奈が演じた「夜明けとワンピース」(平安咲貴作)だ。若い才能がキラキラして見えた。5人の演じる舞台は簡単な箱と椅子がメインである。

新垣七奈の舞台は白い椅子が一つ。それがキャリーにもなった。そして白い透明な傘が一本。女の子は白いドレスに濃いブロンドに染めた髪。今日、世界が滅亡するんだって、の台詞から始まるその日、レオナルド・ダ・ビンチやマヤ暦が世界が終わる日と名付けた一日の出来事を通過する物語。

以前、実際に「先生、今日世界が終わる日なんだよね」と女子学生に指摘されたことがあった。世界が終わる日を憂えて自殺した若者も現れた。この物語の世界は決して遠くはなかった。多くの占い本があり、情報が飛び交い、その予言、ノスタルダムの予言もあった~、に心が穏やかならず、世界が終わる日をどう過ごそうか、日常と非日常の空間、ふんわりと掬いがたい時の流れに翻弄され、逃げたくなり、逃げられず、普通の時から逸脱したくなって、街に飛び出した少女が、ナンパされてラブホテルに行き着く。誘った男は無言だった。世界が終わる日は、来なかった。しかし彼女はその日を日常を超えて誰かと通過したのだった。

おとぎ話のような、メルヘンのような物語だが、極めてリアルでもあった。その時、世界が終わる時、あなたはどう過ごすの?と問われている気もした。それは死を、個人の死と世界の死をどう見据えるのと~。

台詞のことばが詩的で、ふんわりした手触りのような舞台。不思議な魅力があった。

今現代沖縄演劇は活況だ。その潮流が定着し、存在の流れを作っている。

今年10月15日、16日に犬飼憲子さんの芸歴30周年記念公演「ホントに?」が沖縄市民小劇場「あしびなー」で開催されるという小さなチラシに驚いた。福岡から沖縄にやってきて、すっかり沖縄現代演劇の中軸として、代表的な俳優になった犬飼さんの持続する精神の強さと、この間演じた作品が脳裏に浮かんできた。いい作品が結構ある。沖縄の伝統芸能の場合、芸歴50年記念公演とか盛んだ。しかし現代演劇で芸歴XX年記念公演は見たことがない。ゆえに尚の事、彼女を応援したい。

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