庭の物語
貴女の賢さに半ば感動しつつ、見上げていた。
高いシークヮーサーの木と琉球月橘の間に
網を張って
クマゼミが二匹囚われ
緑色の光沢を放つカナブンもまた
身動きが取れずもがき、糸に絡まれ
餌食に。
貴女の捕獲の巧みさに
驚き、怒り、悲哀が通り過ぎた。
クマゼミもカナブンも懸命に生きていて
交尾し、次に命を引き継ぎたいと、命のリズムを
生きていたはずだった。
昆虫の命のサイクルを生きていた。
そして貴女も昆虫類の命のリズムを生きていて
巧妙な幾何学的模様を自らの身体から放出する糸で描いた。
これは数理哲学か
芸術か
生きるための芸術だー貴女が叫んだかどうか、知るよしもないが
工夫を凝らして作り上げた住処は罠
黄色い糸が光に照らされて美しく見える刹那
アゲハチョウがふわり飛び込んできた
花の薫りに酔って~。
否、交通事故のように
そんなはずではなかった夢に落ちた。
貴女のひたすら獲物を待つそのしぶとさに拍手
もはや待つことの美学だ
ひたすら待って罠の巣を生きる。
生きる糧が飛び込んでくる。
生涯は網を編み、飛び込んでくる同じ昆虫類を食べる繰り返し。
そんな時間のルーティーンにいきなりの終幕
自然の哲理か気まぐれか。
台風の朝、庭に立つと、貴女は消えていた
「ある日突然 二人黙るの」
黙って見上げる空
風雨の中で耐える姿に
心がときめいた。
クマゼミさんたち、
「リべンジなんだって~」
命は平等で同じではない。
ガジュマルの木に巣を作ったイソヒヨドリが
ニガウリ棚の上をさっと通り過ぎた。
( カミキリムシのロマンス)