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「市民社会」と共生ーー東アジアに生きるby古川純、渡名喜守太の「琉球先住民族論」も!

2012-06-09 09:23:02 | 書評
昨日、膨大な戦時中の資料を持っている渡名喜守太さんから謹呈でいただいた書をご紹介しますね。昨今批評書の出版があいついでいますが、渡名喜さんのこの「琉球先住民族論」は最近の松島泰勝さんの『琉球独立への道』(法律文化社、2012年)と同様、刺激的だった。この間あいまいだった視点が明瞭に展開されていることに驚いた。新聞でエキスのエッセイを書いていて、その総論の具体的な事例を含めた論の展開を期待しているが、それはその序説と言えるのかもしれない。200枚から300枚の原稿で紙面で展開したことを一冊まとめるつもりでアウトラインを書いてきて見せてね、と話したのだけど、渡名喜さんが厳しい環境で図書館にこもって論構築をしていることが推測できるゆえに、この一冊は貴重である。(恵まれない外野の研究者と言えるかもしれない)

私自身、来年の10月までに博論を書くと決意だけはしているものの、まだそれに入れない状況で、歯ぎしりしていて、夏以降気を引き締めて書く予定で、やはり覚悟ですね。だから渡名喜さんにもご自分の著書を一冊出すべきだと話した。論稿の中身が良ければ出版社をご紹介してくださる教授はいるので、と話したのだが、ーー。

最近図書館から借りたままの王暉氏の『世界史のなかの中国、文革、琉球、チベット』の視点も網羅している。

本のアウトラインです!
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 はしがき
 1.スミス・マルクス・グラムシと「市民社会」 鈴木信雄

 2.変革の主体としての社会 ー社会をつくる思想の源流と歴史  山田勝

 3.「新しい市民社会」形成と日本国憲法の課題ーー内藤光博

 4.民法における家族と市民社会ーー木幡文徳

 5.琉球先住民族論 ーー渡名喜守太

 6.ヤマトと琉球のマツリとマツリゴト    樋口淳

 7.韓国の「市民社会」と現段階とヘゲモニー闘争 丸山茂樹

 8.「市民社会」論と「世間」論の交錯を考えるーー古川純

【補論】人権の「普遍性」と「文化拘束性」 古川純
(補論)日本国憲法の制定と「外国人」問題 古川純

 9.【対談】山田勝=古川純

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以上の構成になっていて、渡名喜論と樋口論を読み、他、古川さんの「アジア人権憲章への可能性」が興味を引いた。3・11以降の日本の変動を丸ごと対象化した各論の展開で『市民社会』、コミュニティーの有り様を論じている。理論と実際のデーターが加味されている。

関心はしかし「琉球先住民族論」
である。

1879年の琉球処分を琉球併合だとみる渡名喜さんの論の斬新さは戦前66年、戦後67年の根っこの構造を読み解き、「軍事、安全保障問題以外の重要な問題、文化、言語、自衛隊配備、土地、居住者による人口動態の変化、外部資金による富の収奪、開発による自然や民族的聖地の破壊、土地の収奪、各種の格差など経済・社会などの分野の沖縄の意識の低さ」を指摘し、日本への同化の推進母体の教職員組合の日本への適合を主なターゲットにしてきたこの間の歴史の歪みを突く。近代化、富、外形的豊かさにめくらましされ日本人になろうと突っ走ってきた歴史の背景は、巧妙な日本による外交(清など)を断ち、内部に取り組む仕掛けにのっていたこと、いざとなったら植民地として切り離してきた日本の歴史‥政治的意思‥からくりが切開されていると同時にその日本の枠組みに積極的に加担していった沖縄の指導者たちの欺瞞‥隠蔽・思慮の弱さも見えてくる。スパイ扱いされ殺され、盾にされた沖縄人は日本人ではなかった。

琉球併合、沖縄戦、戦後の琉球『処理』、琉球人の意識の問題など、「琉球・沖縄人が独自の言語、文化‥歴史・精神世界を持っていることが強調される。

「今までの琉球‥沖縄の指導者たちは強者に同化しようとしてきたため反戦平和を唱えてきた革新勢力さえ他の弱者への共感は弱かった。グアムへの海兵隊の移転の支持はその表れである。」との視線がある。

今後の展望では松島さんや王暉さんの論が紹介される。與那覇潤の「中国化する日本」も面白かったが、ポップ調で若者に受け取りやすい構成で、やんわり現況の日本を歴史の推移で切るという批評である。日中の関係の書物なら売れるようになっている潮流なのだろうが、なんとなく王さんの『世界史のなかの中国、文革、琉球、チベット』の本がベストセラーになったらいいなーと思ったりする。今年1月に台北で会った北京の研究者も言及していて、世界が狭くなったと感じた。東アジア共同体なり共栄圏なりをもっと大胆に思考してもいいのではないかと思った次第だが、渡名喜さんの論からすると、琉球‥沖縄の民族主義は大国のナショナリズムと異なる、大国に支配された者の解放のための思想、運動ということになる。

被支配者、被抑圧者の解放のための思想であり、弱者の思想である、と論じる。そのへんは以前戦略的本質論のところで紹介して、現在UPしていない論をまたUPしたくなった。その辺の弱者の論をまた切り刻もうとする支配者の論があったりする。

今後の展望として琉球‥沖縄人の独自のアイデンティティーが問われると結論づける。

ところで2010年3月国連人権差別撤廃条約審査委員会は日本政府に対し「ーーー沖縄の住民は特定の民族的集団として認識されることを求めており、また、現在の島の状況が沖縄の住民に対する差別的行為につながっていると主張している」という勧告を出した。

戦時中沖縄人をスパイとして殺した加害者(日本兵)の人権侵害については処罰していないのではないか、の指摘もなるほどに思えた。「沖縄戦における住民の死はまさに個人の被害であると同時に琉球・沖縄人という民族集団の被害であり、琉球・沖縄に対するジェノサイドである。日本軍がアジア太平洋地域で行った住民に対する加害と同質のものであり、治安活動の結果であると同時に、日本という他者による戦争に巻き込まれた非業死である」は現在新聞紙面でよく見られるようになった構造差別の根っこを示していると言えよう。

「琉球・沖縄人が日本人になるということは琉球・沖縄人に対する決定権、すなわち『生、殺、与、奪」の権利を日本が握るということである。琉球・沖縄人は日本と同じ同一制度、同権獲得を地位向上と誤解してきた。従来の主張の「同じ日本人として差別するな」「本土並み」である。自ら生得の権利を日本に渡し、日本人化するため、琉球・沖縄人独自のものを否定し、必死に日本人になろうとして自ら日本ナショナリズムに統合されていった。」

なるほど!
一方で東アジアなりアジア共同体構想は国を超えた市民社会なりコミュニティーがつながり得るゆるやかな地域共同体がありえるのではないかと希望を持ちたい。

樋口淳の「ヤマトと琉球のマツリゴト」
も面白かった。

1.卑弥呼と男弟ーー神祭りと政治
2.あの世と此世をつなぐ
3.斎宮と制度化とその衰退
4.古琉球の宗教政策
 (1)王と聞得大君の伝承
 (2)古琉球のマツリとマツリゴト
 (3)オナリとエケリの行方
 (4)尚真の八重山征伐と尚清の大島征伐、1500,1537
 (5)八重山征伐と大島征伐の帰結
5.国家神道と琉球処分(併合)
 (1)国家神道の誕生
 (2)琉球処分(併合)と聞得大君制度の消滅
 (3)沖縄神社の創建と御嶽

1500年以前の八重山や宮古島と大島への関心が高まった。
琉球王府の八重山、大島征伐の歴史的背景、と信仰の体系化は興味深い。
「うない信仰」の背景もまた琉球‥沖縄独自のジェンダー観との関係でも興味深い。
再読する必要あり。姉弟、兄妹婚の神話の背景は興味深い。神話を読み解く必要性。
セクシュアリティーとジェンダーと信仰、政治・祭祀体系は繋がっているね。

ちょっと長くなったけれど、この本は市民社会に焦点をおいている。そして3・11以降の日本とアジアの関係性を視座においている。その中での琉球・沖縄の位置づけがどうなのか、浮いていなければいいのだが、と思った。

渡名喜さんは独自に一冊のご本をやはり出すべきですね。現況を独自の視点で切る必要があるのだろうと思う。期待しています。私はやはり性、セクシュアリティやジェンダーと政治を含む表象としての女性、の意味するものを読みとかなければ、ーーー琉球・沖縄においての位相!
やれやれ!これからがたいへん!

一応、これで謹呈に応えたことにします!
多くの方に是非読んでほしい書物です!

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