先日あったおはなし会で オーストラリアの先住民「アボリジニ」の昔話をしました
神様が この世界と 生きものを創り出して まだ 間もない頃のおはなしです
昔 鳥も動物も 同じ言葉で話すことができました
生きものは まだ「死」を知りませんでした
命は永遠に続くと思っていたのです
ある朝 オウムが高い木の上で遊んでいました
「ねえ 見て!見て!こんなこと出来るかい?」
オウムはふざけて 踊るように枝から枝へと飛び跳ねて見せました
でも 足を踏み外し 地面に落ちてしまいました
オウムはピクリとも動きません
動物たちはオウムを取り囲み 抱き起こしましたが
オウムはぐったりと横たわってしまいます
長老のウォンバットが言いました
「オウムは首の骨を折って 死んでしまったようじゃ」
「ええっ! 首の骨を折るって・・死ぬって・・ どういう事?」
「精霊が そうしたというのですか?」
口々に訊きますが ウォンバットだってわかりません
みんなを集め 相談することにしました
ヘビにカラス エミューにポッサム 小さな虫から大きなカンガルーまで・・・
大きなユーカリの木の下に あらゆる生きものが集まりました
するとその時 ふいに精霊が姿を現し
オウムを抱きかかえ 空高く飛び立ち 雲の彼方へ消えていったのです
みな 言葉もなく あっけにとられてしまいました
ウォンバットが言いました
「精霊はオウムを空の上の自分たちの世界へ連れて行ったのじゃ
そこでは オウムを他のものに変えることができるのじゃ」
みんな頭を抱えました
こんな事は初めてで なかなか理解が出来なかったのです
「それが本当なら・・」ポッサムが言いました
「オウムが何に変わるのか この目で確かめたいものだね」
みんなも 「そうだ!そうだ!」と うなずきました
でも 誰が空の上に行くのでしょう?
ウォンバットは 年を取り過ぎていました
これから冬へ向かう今 地上よりもずっと寒い空へ 誰が行くというのでしょう?
その時 何十匹の毛虫たちが 体をクネクネさせながら みんなの前に出てきました
「ボクたちが行きましょうか? ボクたちが行って 冬の間 そこでキャンプを張ります
暖かくなったら戻って 報告します ボクたちに任せてください」
なんと勇気のある毛虫たちでしょう
毛虫たちはひとかたまりになって 雲のようになり浮かぶと ゆっくりと空へ昇っていきました
厳しい冬も終わりに近づいたある日 ウォンバットがみんなを集めました
「そろそろ春になる 毛虫たちが心配じゃ 誰か見に行ってくれんかのう?」
ヘビたちが進み出ました
「ぼくたち冬眠から目覚めたばかりです ぼくたちが行きましょう」
ヘビたちは空の世界で 隅から隅まで探しましたが 毛虫たちは見つかりませんでした
次々に 代表となった動物が探しに行っても やはり毛虫たちは見つかりません
こうしているうちに 待ちに待った春がやって来ました
最初の暖かい日 トンボたちが息せき切って飛んできました
「ボクたち 毛虫たちが戻ってくるのに 出逢ったんです!!」
動物たちは ざわめきました
「ホント???」
「で 毛虫たちは元気なの???」
「え・ ええ・・ でも 姿がすっかり変わっていたんです・・」
動物たちは ドキドキしながら 空を見つめました
すると・・
赤や黄色や青の 色とりどりの翅をひらひらさせ 舞い飛ぶ 美しい生きものが
春風にのってやって来たのです
あの毛虫たちが こんなに美しい姿に生まれかわった・・
それを見た 動物たちは 命の生まれ変わりを素直に受け入れることができました
この話を語り継いできたアボリジニの人々は
春になって 飛んでくる蝶々を見るたび 命のよみがえりを思い起こすそうですよ
こんな おはなしです 
*** 「アボリジニのむかしばなし」 池田まき子 新読書社より ***