朝のラッシュ・アワーが過ぎても 電車はそうすぐに空くわけではない
でも 何故か 今日 私の乗った車内は空いていた
珍しいことに 座れる席が幾つかあって その中から私はドア横の2人席を選んだ
既に座っている大柄な中年の男性は 2人分の席の2/3を占めていた
私は残りのスペースでも十分と 体を滑り込ませた
けれど 座った途端 少し後悔した
というのは 隣の男性が なにやらブツブツ呟いていたからだ
精神の不調和?
前の座席の人が 不審の目を向ける
しかし 気にしている訳にもいかない 私はすることがいっぱいある!
歌の本を取り出し 譜読みを始める
もちろん声を出すわけではないのだが 口は発音の形に動くし 足先や手はリズムをとっている
よく見たら 私も変な人だ!
けれど 今は 他人に関心を持つ人などほとんどいない
だから 私は安心してそれに没頭し 頭の中は音楽でいっぱいになる
気がつくと 東京のターミナル駅に近づいていた
あれから30分もの間 集中して譜読みをしたのだった
私の降りる駅はまだ先だが 本をバッグに仕舞い ペットボトルの水を一口飲んだ
私の視界に 開こうとするドアの前に立つ大柄の男の人の姿が入る
ぼんやりと「ああ 隣の席の人が降りるんだ」と思う
男の顔が90度 横を向く
目の端に 私が入る位置だ
彼は「さようなら」というように ゆっくりと左手を挙げ 降りて行った
狐につままれたような一瞬!
言葉ではない高度なコミュニケーションがあるんだ~
思わず私はニヤリとした
彼とすれ違うようにして サラリーマン風の男性が車内に飛び込んできた
空いている隣の席に真っすぐ向かって来たが 私のニヤリ顔を見て カクッと向きを変えた