写真家・奥田實氏が、前回の『生命樹』に続く第2弾として、今春、『野菜美』という写真集を出版された。
奥田實氏は、実は、私の学生時代の友人・Oさんの弟君でもある。
ご本人とお話したことはないけれど、Oさんを通じて、實氏のこれまでのガンバリぶりを聞いていた。
ずいぶん前になるが、大雪山を撮られた写真集を買わせてもらったこともある。
奥田氏は、若い頃からプロの写真家をめざし、撮るべき対象・美しい風景を求めて、全国を行脚される。
その彼の心をつかんだのが、北海道の自然の雄大さと美しさ。
彼は38歳のとき、埼玉から北海道・大雪山の麓に居を移され、本格的に北海道の自然と向き合われることになった。
しかし彼は言われる。
「どんなに美しい風景にカメラを向けても、心から満足できる写真はできない」と‥。
そんな彼に、ある出会いが訪れる。
彼がいつものように森を歩いておられた時、いつも見慣れた“オニグルミ”の高い木の上に、小さな花が咲いているのを見つけられたのだ。
決して華やかでもなく、普段なら見過ごしてしまいそうなほどに、ひっそりと咲いている花‥。
オニグルミの木と、その花
その花を見て奥田氏は、今まで何気なく見てきた樹木たちの、“命の営み”に気付かれたという。
それ以来彼は、一本一本の樹木の今の姿だけでなく、その“命の営み”を捉える写真を撮っていこうと決意される。
10年ばかりの艱難辛苦を経て、彼の努力は、『生命樹』という写真集(一番上・左の写真)として結実した。
『生命樹』は、各方面から注目と絶賛を浴びた。
写真集を買った学生時代の友だち二人も、「素晴らしい本よ!」と興奮気味に語っていたほどだ。
(私は残念ながら、お値段の高さからその写真集を買わなかったんだけれど‥)
『生命樹』が世間の評価を受ける中、奥田氏は次の写真の対象として、樹木よりもっと身近な畑の野菜たちに、目を向けられる。
そして、その彼の試みに注目したNHKが、奥田氏の生活を追ったドキュメンタリー番組を作成した。
それが、昨年のお正月に放映された、『不思議の庭の野菜たち』という番組だ。
~私はこの番組を見て、(上に書いたような)奥田氏の歩みも知ったのだったが~
奥田夫妻は、大雪山の麓の、自然のまっただ中で暮らされている。
北海道の自然は美しく、素晴らしい表情を見せてくれる。
けれど同時に、北海道の冬は、言うまでもなく厳しい。
下の写真は、屋根の雪下ろしをされる奥田氏。
そんな生活の営みの中で、奥田氏はご自分の畑の野菜たちの撮影を続けていかれた。
“野菜”と言えば、私たちは普通、“食べもの”として見、考える。
しかし奥田氏はそうではなく、自分の畑の野菜たちを、一つの“命のサイクル”を持つ植物として、見つめ続けていかれる。
そして野菜たちが、そのサイクルの中で“輝く瞬間”を捉え、カメラに収められるのだ。
私は、奥田氏が掘り起こされたアスパラガスの、地中に張った根の圧倒的な存在感に、驚嘆した。
そしてアスパラガスに花が咲き、実がなるなんてことも、想像だにしなかった。
下は、夜露を浴びて輝く、アスパラガスの赤い実。
☆以下、奥田氏がそのように撮影を重ね、まとめ上げられた写真集・『野菜美』の中から、私が特に心惹かれた写真を載せさせていただきます。
ただ、下の写真はどれも、奥田氏が創りあげられたページの一部であり、これらが奥田氏の表現しようと思われた意図に反することがあるかも知れな
いという危惧をもちつつですが‥。
種子をいっぱいつけたフキの実 ルバーブの新芽
ホースラディッシュの新芽と根 ニラの花とつぼみ
アカジソの実(断面) ズッキーニの花と実
セロリの花 根が出たジャガイモ
ゴボウの花 (右はその断面)
メキャベツの若い株 カブ(左‥発芽 右‥越冬して新芽を出した株)
成長したミョウガと花
☆奥田實さん、私が見たこともない野菜の輝ける姿を見せていただき、本当にありがとうございました!
しばらくはユックリ休まれて英気を養われ、また私たちを、未知の素晴らしい世界へといざなってくださいマセ。