「あなたの好きな画家は?好きな作曲家は?」と聞かれると、いろんな画家・作曲家が浮かんでくるけれど、その中で「一人を」ということに
なると、私は躊躇なく、画家ではゴッホ、作曲家ではベートーヴェン、と答える。
それは、ゴッホとベートーヴェンが共に、深くて熱い≪人間愛≫の持ち主であり、二人はその≪愛≫を表現するために、苦しみ抜き、闘い
抜いて、自らの作品として結実させた人だからだ。
(と言うのは、もちろん、私の個人的な考えなのですが‥。)
先の日曜日(2月23日)は、朝の「日曜美術館」で≪ゴッホ≫が取り上げられ、午後は「横山幸雄さん」のコンサートで≪ベートーヴェン≫の
作品をタップリ聴くことになって、素敵な≪ゴッホ&ベートーヴェンday≫となった。
時間的には逆だけれど、先に、フェスティバルホールで行われた≪横山幸雄ピアノ・リサイタル/ベートーヴェン究極の7大ソナタ≫から。
2月23日と言えば、新型コロナウィルスの発生からもう大分日が経っていたので、コンサートの開催そのものが心配されたが、何とか
無事開かれた。
それでもコンサートは、多くの人が一つの空間に集まるので、もし感染者がおられた場合は感染のリスクが高い。
そこで、マスク嫌いの私もしっかりマスクをして、フェスティバルホールに向かった。
客席はほぼ満員だったが、殆どの方がマスクをしておられた。
それはさて置き、今回ベートーヴェンのピアノソナタを演奏してくださる『横山幸雄さん』は、1990年のショパンコンクールで、最年少
(10代)で3位入賞を果たされた、素晴らしいピアニストだ。
横山さんの演奏会には私は何回か行ったが、彼は何しろサービス精神がとても旺盛な方なのだ。
今回も、普通だったら、ピアノソナタを5曲弾いてくださったら、もうそれで十分だと思われるのに、7曲も弾いてくださった。
それは横山氏のサービス精神ということもあるだろうけれど、見方を変えれば、それ程彼はピアノを弾くのが好きなのかも知れない。
そのお陰で、この日私たちは、ベートーヴェンの、ある時は激しくある時は切なく美しいメロディを、思う存分堪能することができた。
さて、23日の午前中に見た「日曜美術館」では、『ゴッホ 草木への祈り』と題して、大樹から名も無き草たちに至るまで、「草木」に対する
ゴッホの想い・「草木」に託した彼の祈りという視点から、ゴッホが取り上げられていた。
いろんな草木の絵が紹介されていたが、ここでは、晩年に描かれた3枚の「糸杉」の絵だけを挙げておくことにします。
1) 亡くなる前年の1889年6月に描かれた『糸杉』
2)同じく1889年6月に(1に続いて)描かれた『星月夜』
3)1990年、亡くなる少し前に描かれた『糸杉と星の見える道』
因みに3枚の絵の中で私の一番好きなのは、やっぱり、最後の『糸杉と星の見える道』かな!?
天高く伸びる糸杉の傍の道を、優しい月と星の光に照らされて、(たぶん)農夫が二人、仕事を終えて帰ってゆく。 (もっと後ろには驢馬
の引く車に乗った人たちが、同じように家路を急いでいる。)
死ぬ前に辿りついた、ゴッホの心の安らぎ。
そんなものが感じられるような気がして‥‥そしてそれを思うと、なんだか涙があふれてきそうだ。
ゴッホの絵は、貧しい農民の写実から始まった。
貧しい農民たちを救おうとして、最初は牧師を目指したゴッホ。
しかし彼のその熱い想いは、当時の教会には受け入れられなかった。(もちろん、彼の思い込みの激しさが、災いもしたのだけれど)
そして、画家になったゴッホは、絵の中に、貧しい農民の姿を、一筆一筆、愛情を込めて描いた。
彼の絵は、その後いろいろと題材を変え、手法も変わっていくけれど、その底に一貫して流れているのは、強い強い愛だった。
彼が、『炎の人』として、多くの人から今なお愛されているゆえんだと思う。