ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

伊豆の国市・子ども創作能始動!~付・カヌー乗ってきました(その1)

2010-07-26 01:23:03 | 能楽
先日からようやく始まった 子ども創作能のお稽古。伊豆は熱かった。

まあ、いろ~んな事がありまして、今年は 神社の秋祭りで上演することになりました伊豆の国市の 子ども創作能ですが、ぬえとしては 子どもたちの指導のために10年間伊豆に通っています。その間には、これまたいろ~んな事がありました。子どもたちと一緒に汗をかき、泣き、笑い。本当に涙を流して、自分の指導力のなさをお母さんに手を付いて謝ったこともあります。「私、将来は能楽師になりたい」って言ってもらって本当にうれしかったこともある。半年の稽古を積んで、さて公演が終わったその夜、もう稽古がなくなって、お友だちとも会えなくて、フトンの中でしくしく泣いていた男の子の話をそっとお母さんが話してくれたこともある。あの子たちのお陰で ぬえは成長することが出来ました。

そんな子ども創作能も何度も存亡の危機に直面しました。ぬえはイヤな事も見てきたし、悪意も感じたこともありました。でもここで培ってきたものは ぬえにとって本当に大切なものだし、子どもたちも同じ思いだと確信できます。今回もいろんな事があって、いわば「村祭り」のような場所で演じる事になりましたが、ぬえはそれで良かったと思っています。地元に密着して、市民に愛して頂き、身近に感じて頂いてこそ本当に意味のある催しかも知れません。ぬえはこうして今回も存続することができた子ども創作能を、どんなことがあっても守り抜いていくでしょう。

さて先日、今年の公演に応募してくれた子どもたちとはじめて会いました。応募は20名を数え、あらあら、例年に比べて大幅にスケジュールが遅れているのに、予想を大幅に超えた人数にびっくりです。しかも、去年の参加者が今年も挑戦してくれるのは予想通りでしたが、新人さんも数名もいて、これはちょっと予想外のうれしい誤算でした。新しく書き直した台本をもとにさっそく配役を決め、そうして次の稽古日には実際に声を出し、演技指導も始まりました。

今年の子ども創作能は、演目こそ去年と同じですが、台本は大幅に書き換えました。もう10年続いている子ども創作能ですが、読んで字の如く、子どもたちによる新作の能です。地元に伝わる民話を題材に能の形式で新作の台本を作って、地元の小学生がそれを演じるのです。高学年の子が立ち方を勤め、低学年の子は地謡を勤めます。もう10年のうちに、作品は3作を数えるようになりました。地元に伝わる、勇者が大蛇を退治した民話を舞台にしたりもしたのですが、今回の3作目の作品『伊豆の頼朝』は、平治の乱のあと伊豆・蛭が小島に流罪になった頼朝が、平家討伐のためにこの地で挙兵した史実に基づいて台本を書き上げました。『吾妻鏡』や『源平盛衰記』を題材にしたのですが、ぬえのことですから、ちょっと凝り過ぎちゃって…去年の初演の際は、我ながら難しいセリフを小学生に課してしまったと思います。今年は大幅に詞章を削って、小学生にも負担のない台本を心がけましたし、型のうえでも史実にあまり忠実でなく、子どもたちが楽しめるような作品になるよう注意して作りました。

子どもたちの装束も、浴衣や着物のうえに役の軽重に応じて最低限度の装束を着るだけ、その装束もほとんどがお母さん方の手作りです。ぬえが金襴の(でも化繊の)生地を調達して、本物の装束をお母さん方にお貸しして、大人用の装束のサイズを落とした小学生用の装束をミシン縫いして頂くのです。…ぬえとしては、新作能を子どもたちに演じてもらうのではなくて、ちょっと悪い言い方かもしれませんが、お遊戯の中に能の形式を取り入れた劇、というスタンスで取り組んでおります。だから本物の能装束を貸して子どもたちに着させることはありません。「能」を演じさせるのであれば ぬえも容赦がなくなっちゃう。お遊戯であれば、その中に日本の伝統の心を織り込むことで、それを子どもたちに理解してもらえるように心を配って、そうして みんなに舞台を楽しんでもらえる事を第一に考えられる…この違い、わかります??