ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

気仙沼・石巻支援公演、行って参りました(その3=気仙沼、大谷仮設住宅)

2012-02-21 02:21:58 | 能楽の心と癒しプロジェクト
2月10日、この日気仙沼「うを座」のお計らいによって、子どもたちへのワークショップのあとは仮設商店街でお寿司をご馳走になり、そのうえ駅前のビジネスホテルに泊めて頂くことになりました。こんな贅沢しちゃっていいの?

そういえば東北支援に来て、ホテルなんて泊まったのはいつ以来だろう。。そうそう、最初に一人で来た6月、それからまだプロジェクトとしては発足していなかったけれど仲間の能楽師と来た8月。それだけでしたね。あとはずうっと、避難所に雑魚寝をしたり、ボランティア団体の事務所に転がり込んだり。いや、待てよ、そうじゃない。年末にやって来たとき、第1泊目だけは横浜の「海をつくる会」のお計らいで釜石の旅館「宝来館」に泊めて頂いたのだった。あのときも第1泊目だけが豪華な宿泊に豪華な食事でした~。今回も第1泊目がお寿司とホテル泊。ああ、いつもそうなんだ。2泊目からは雑魚寝にコンビニ弁当。そんなもんです。最初の晩だけは味わって夕食を頂きました~。

ああ、そして泊まったホテルは、以前に学校公演で気仙沼を訪れた際に宿泊した同じホテルでした。当時と今と。こんなに違う気持ちで当地を訪れているなんて。

翌2月11日(土)。早起きして笛のTさんと二人で気仙沼の被災地区に行きました。つい1ヶ月半前にも来た場所。。ところが、とてもきれいに片づいていました。それはもう、もう見違えるほど。もうそろそろ震災当時の惨状は伝わって来なくなりつつあります。最初に ぬえがここに来たときにすぐ思った。。あの得体の知れない悪い者が棲みついている影。。これは見事に消え去っていました。言い表す言葉は難しいですが、これは良いことなんだけれども、一方で気仙沼の被災地区の状態を見た誰もが、今回の津波の被害に対する援助を心に固く誓う、そういうキッカケになった場所でもあった、その支援の気持ちが時と共に薄らいでゆくような、そんな危機感も同時に覚えた ぬえでありました。





さてこの日は今回「うを座」さんにお願いしてコーディネートして頂いた気仙沼市の仮設住宅での上演です。行った先は大谷(おおや)地区の仮設住宅。ここは大谷小学校・大谷中学校というふたつの学校の校庭にずらっと仮設住宅が並んでいますが、集会所はナシ。そのはずで、目の前に大谷公民館があるからです。



大谷といえば海岸沿いに道の駅もある大谷海岸が迫っていますが、これらは津波で甚大な被害を受け、その惨状は ぬえも6月からずっと見守っています。その海岸線を走る国道からすぐ入ったところ。。それでも結構な高台に小中学校はあるのですが、そこに向かう途中にあるJAの建物が壊滅的な状態にあるのを見て、これは高台の学校や公民館は大丈夫なのだろうか、と心配になりました。

行ってみると公民館は無事、学校の校庭に並ぶ仮設住宅を見て、やはり高台は被害がなかったのかと思いました。ところが仮設住宅の「会長さん」…仮設住宅には自治組織のようなものがあって、「親睦会」の会長さんのようなリーダーがおられます。自治組織ではあっても行政としてはあくまで仮設なので「町会長」のような名称にならないらしい…にお会いしたところでは、校庭にも50cmの冠水があったそうです。仮設住宅というものは、同じような震災被害が再び起こることを想定して冠水など被害があった場所には建てないのが原則なのですが、平地が少ない土地柄であれば、比較的軽微な被害の場所に建てられることもあるのだそう。そうしてこの仮設は6月には入居が始まったのだそうで、これは仮設住宅への移行としては早い時期にあたるのではないかしら。

さて公演は能『菊慈童』のダイジェスト版です。年末にはじめて石巻の仮設住宅で公演を行って、仮設住宅では上演よりもむしろその後の住民さんとのふれあいの方が大切だな、と感じた ぬえは、着付け体験用の装束とか展示用の面や扇を今回はたくさん用意しました。これは結果的に成功だったと思います。

ところがまた、こういうふれあいの時間はまた今回は次の公演地への移動から開演までの準備の時間を圧迫するわけで。。とくにこの日は大谷仮設のあと近所のお寺での上演、さらに石巻への移動までスケジュールが立て込んでいましたから、ちょっと心配しました。かと言ってふれあいの時間をぞんざいに短縮するわけにもいかないし。。

そこで応急措置として、能の上演後はTさんに笛のワークショップをして頂き、その間に ぬえは装束をたたんで洋服に着替えることにしました。着替えた ぬえはTさんとバトンタッチして面を見せたり着付けの体験をしたり、シテ方としてのワークショップに繋げます。その間に今度はTさんが着替えて。。苦し紛れの解決策でしたが、意外にうまくいきました。唐織を着た、ちょっとふくよかなおねえさんを中心に記念撮影もパチリ。会長さんは「参加者が少なくて申し訳ないねえ」なんて言っておられましたが、なんのなんの、能の上演にあまり大入り満員は期待していませんでしたが、大勢の住民さんに集まって頂き、楽しんで頂けたと思います。

おみやげに頂いたのがこれ!



なんでもアクリルたわし なんだそうで。ふむふむ、これは「あんでねっと」というボランティア団体による仮設住宅支援のプロジェクトなんですね。

Facebookにもアカウントがあるようですが、そこから活動内容についての説明を転載しますと。。

復興のアクリルたわし

「あんでねっと」では、東日本大震災で被災された方々のコミュニティ、ネットワーク支援を目的としています。仮設住宅内で生活されている皆さんが定期的でも時間がある時でも集まって、名前の如くワイワイとあみものをしましょう、という「場」を提供させていただくのがこの「あんでねっと」のプロジェクトです。
 当初は、避難所から仮設住宅に移られる方にアクリルたわしをプレゼントしようということから始まりましたが、これからはアクリルたわしを作って売って集会所の活動資金にしようということになりました。売上金はすべて集会所での光熱費や備品、集会所の運営、活動資金に充てます。
 現在、岩手県山田町「山田南小学校仮設住宅・あんでねっと@山田町」と宮城県気仙沼市「大谷小学校仮設住宅・あんでねっと@大谷」でプロジェクト進行中です。
 山田町では「山田のホタテ」、大谷では「大谷のマンボウ」と、アクリルたわしがご当地名物のかわいいキャラクターとなって販売中です。是非ご協力をお願いします


…とのことです。こういうの、いいですねっ

あんてねっと 復興のアクリルたわし