かっ飛ばせ借金 打ち勝て倒産

 
 ‐オグチ経営研究所‐

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値動きに振り回された不動産

2016-03-11 | 雑感
「私、埼玉に移転しました。今後は土を友として余生を楽しみます。」
変哲もない移転通知。築地に自宅の有った友人からだ。

彼の自宅は築地だ。敷地は25坪くらいの狭いところ。でもみんなの羨望の的だった。
別居していた行商人の父親が戦後手に入れ、死後、彼が住んでいる。
惜しむらくは通りに面した土地でなく、10mくらい3尺ほどの通路が結んでいる。

その通路は誰の物か解らないが、それが唯一の出入り口だ。

当時、周りはビルと言っても民家に毛が生えたもの。しかし、日本でも有数な土地、そのうちに全部ビルになるだろう。その時は、この家はビルに取り囲まれて、出入口も無い孤島になる。こんな土地、隣のビルを建て替えの時にうまく売るしかないな。彼は常々思っていた。

そこにあのバブルがやってきた。通りに面したところは、坪1500万とか2000万と言って居る。
上手くすればこの家も土地25坪。4ー5000万になるかもしれない。彼は内心期待大だった。

案の上、周りの3軒も持主が変わってそれぞれ 建直す噂。
2軒から殆ど同時に買いたいがと打診が来た。7000万と8000だった。価格は上がり気味で、安定はしていない。粘った方がよいと思った。
彼は考えさせてくれと一旦断った。もう1度、買い取り価格を上げて来るだろう。
来たことは来たが増額案は無い。彼は渋った。3度目の来訪はなかった。

1年過ぎた。残る1軒も建直しらしい。突然自宅にお訪問が有った。彼の女房も在宅、同席した。
何と今度は1億2000万と言う。1億を夢見ていた二人はびっくりした。
承諾しようとする彼に目くばせし、女房は考えますと一旦保留した。

もう1回は打診がある。その時に承諾しようと言う腹だったが、打診はなかった。
待ち切れず彼は逆に売り込みに行ったが「設計は終わっている。」と断られた。

工事が進み今まで3尺あった通路が2尺になった。文句を言ったが、登記簿図面通りやって居る、文句があるなら自分で測量して、間違った居るか確認したください。
結局は四方コンクリートと窓もない壁だらけの中に古びた家が残っただけだ。

洞穴の底に住む。居心地は非常に悪い。四六時中、エアコンの世話になっても、どこか
普通の生活ではない。家をそのままにして郊外に越した。築地は空き家になる。
すると、この空き家に高い固定資産税が急にかかってきた。
1億の不動産が金食い虫に化けて来た。

このことは夫婦間にも大きなヒビを入れた。逃した魚は大きい。お互いに責任をなすりけ、
ついに離婚までに発展した。丁度定年退職だった。
何もかも半分ずつ。ただしこの家だけは何も言わずに彼の物。

女房は知って居た。もう、この家は絶対に売れない。リフォームすらままならない。
しかし固定資産税だけは空き家になった急に上がり、そんなものの権利をとってもお荷物になるだけだ。そんな考えだったらしい。

彼は今の借家を解約し、住民票をまた戻した。資産税や、今の家賃を節約しなければならない。
でも、ここにいては頭がおかしくなる。
都内でも月20000円の家賃のアパートはいくらもある。
多摩川沿いに1室借りて半々の生活をしていた。

その彼からの通知状だった。
移転先は埼玉も山間。
そこに移ったのは思いがけず、この家が売れたらしい。居抜きで2000万。妥当かどうか解らないが彼にとっては棚から牡丹餅の感じ。
相手は新築は出来ないから、古屋を土台に、リフォームして飲食業をするらしい。
そんな事はどうでもよい。お荷物が2000万に化けた。中古の家ならば、1000万以下で買える。余った金と年金でこれからの生活は大丈夫。好きな土いじりも堪能できる。
その上、パソコン1台あれば言う事はない。
そこで埼玉を選んだらしい。

それにしても大きな変化が有った都心の土地。それに振り回された一人の男。
今後もこんな事は起こるだろうか。





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