アンティークマン

 裸にて生まれてきたに何不足。

熊本のみなさんありがとうございました

2015年02月11日 | Weblog
 平日の夕刻だというのに、新千歳空港から札幌へ向かう「JRの快速エアポート」は、乗車率150%だった。乗客の半数は「you(ユー、早い話が外国人)」だった。それぞれに、スマホで「雪祭り情報」をチェックしていたところから「札幌、小樽、旭川の冬の祭り」を見に行く人たちであろう事は察しがついた。
 私は、客席から溢れ乗降口付近に立っている客をかき分けて客席へ入った。youたちが一様に大型のキャスター付きのトランクを持ち込んでいるため、通路の移動がままならない。やむなく、入ってすぐのところに立っていた。
 入ってすぐの優先シートには、20歳代の東洋人の若者が大きなキャスターケースと共に鎮座していた。私はその若者の頭上に立っているという場面設定となった。

 若者は、「おにぎり」を出して食べ始めた。
 「ヘーッ!日本慣れしているんだなぁ」私は、彼を観察し始めた。もっとも、夕方とはいえ外は真っ暗。目に入るものは、眼下の彼だけ。観察というよりは、「彼を見るしかなかった」と、いうべきか。

 おにぎりを食べ、ペットボトルのお茶を飲んだ彼は、おもむろに手紙をとりだした。なんと、手紙は日本語で書かれていた。
 「日本人だったのか?」
 手紙の上段の。「○○○へ」の、○○○がカタカナ。日本の姓名ではないものだった。外国人であることを確認した。
 彼への手紙は、彼の頭上に私の顔があるため、しっかり読むことが出来た。他人への手紙を盗み読みしているようだが、普通に目を開けていたら普通に目に入ってくるので、「盗み読み」には当たらない。手紙の内容は、彼と交流した日本人の中高生が、彼との別れを惜しむもの。彼は、滞在中に柔道の黒帯を取得したらしく、手紙に書かれたイラストは柔道着に黒帯を締めたもの。イラストの横に、「黒帯、すごい!」と書かれていた。手紙は、20通ほど。いずれも、ノートに書いてそのページを破ったもの。素朴だが、それがむしろ感動的なものだった。
 「○○○のことは絶対忘れないよ」「僕らの町へ来てくれてありがとう」…地域住民に親しまれていたらしい。

 国際交流員かALTのような仕事の任期満了で、母国へ帰るにあたり、折から行われている「札幌雪祭りなど」を見物してから帰ろうということと思われた。

 この日、彼は何度手紙を読み返したことだろうか。

 外気温は-9℃。電車内の窓は温度差で曇っていた。
 彼は、その窓に指で文を書いた。その文をスマホで撮って…指で消した。曇った窓に、楕円形の暗闇ができあがった。

 文面は…
 「熊本のみなさんありがとうございました」