ピアノは腕の重みを鍵盤に載せることができないと上手く弾けません。
重みは力を抜くことで生み出せます。
まずはこれが出来るようになること。
この時にもうひとつ大事なことがあります。
力を抜くだけではダラリとした音になってしまいます。腕を少し持ち上げ、腕を支えた状態で弾く必要があります。
ピアノでは当たり前となっている重力を使う奏法。重力奏法と言いますが、それを誰でも身に付けられるように考え出された東欧を中心とした指導法は、3の指(中指)のノンレガートからレッスンを始めます。ロシアを筆頭に東欧は素晴らしいピアニストを多数輩出しています。
その次は2の指(人差し指)、そして4の指(薬指)と進みます。
東欧ではありませんが、私の手元にあるドイツの導入教本も黒鍵を234の指で弾く所からレッスンが始まります。
アメリカ、日本で多く見られる固定5指奏法は、1の指(親指)から習い始めます。
特に日本人は順番通りが好きな国民なので、1の指から習い始めることが当たり前の事と思っていると思います。
さて、234の指から習い始めるとどのようなメリットがあるかと言うと、
・腕を支えやすい(親指や小指で腕を支えてみて下さい)
・腕の重さを載せやすい(肩から真っ直ぐに指先に重さが流れていきます)
・手首が使い易いので、音を離す時に自然に音を減衰させられる
では、1の指から習い始めるメリットは何でしょう。
・ドに1の指を置いておくと指の番号を見るだけで曲が弾ける(音符が読めなくとも弾ける)
・鍵盤から指を離さなくて済むので、間違わない安心感がある
東欧のメソッドではノンレガートでレッスンを始めます。そのメリットは、
・広い音域の曲が弾ける(それにより腕を使うことを覚えられます)
・高音域の曲、低音域の曲を無理なく弾ける(耳が育ちます)
・すぐに黒鍵の曲が弾ける(腕を支えることが自然に身に付きます)
固定5指のデメリットは正しいピアノ奏法を身に付けることが難しくなる、ということです。
・指を置いておく曲から習い始めるので、音域がなかなか広がらない
・指を置いておくことで、腕や手首の使い方を覚えられない
・腕の重みを使いにくいので音の鳴りが良くない
・楽器の奏法を身に付けることを目的にしていない
固定5指で習い始めても、進みが非常に早い場合はこのデメリットの影響は少なくて済みます。
固定5指の教本で教えたとしても、鍵盤に指を置いたままにせず、音の動きに合わせて手を左右に動かすことを教えることは出来ます。私はそうして30年以上教えてきました。
しかし、腕の重みを載せる感覚はそれだけではできませんでした。上手く手の移動が出来ている割に音の鳴りは足りず、耳障りではない音は出せてもピアノが十分に歌ってくれる音にはならず、物足りない演奏をずっと耳にしてきました。
だから東欧のメソッドを知った時に、この方法に変えたのです。
東欧メソッドのデメリットを挙げるとしたら、指使いで音符を読むことが出来ない、習い始めは聴いて覚える曲を弾くので記憶力が必要、音をよく聴く集中力が必要、手の使い方を覚えなければならない、癖を直さなければならない。
気軽にピアノを弾きたいだけの人には面倒なことが多いと思います。
楽器演奏は本来簡単なものではなく、身に付くのに時間がかかり、知的作業が多いものです。
日本にはヤマハ、カワイといった世界的に有名な楽器メーカーがあります、そのせいか、日本はアジアの中でピアノではトップを走っていると思われているかもしれませんが、もうだいぶ前から韓国の方がずっと実力あるピアニストが多く育っています。
日本のメーカーが音楽教室も経営している所に問題の起因のひとつがありそうな気がします。
楽器を売るために「音楽は楽しい」という概念を刷り込んでいるように感じます。
日本人の気質や楽器業界の影響で失われるものがあることは悲しいことです。
本物を見抜く目を私自身も付けたいですし、生徒たちも付けてほしいです。