デカダンとラーニング!?
パソコンの勉強と、西洋絵画や廃墟趣味について思うこと。
 



ダヴィッド「皇帝ナポレオン1世と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠」(1805~07)

これまでにも、ヴィジェ=ル・ブランユベール・ロベールなど、フランス革命に翻弄されつつも生き抜いた画家を紹介したが、革命の真っ只中に活躍し政治にも深く関わった画家といえば、ジャック=ルイ・ダヴィッド(1748-1825)だろう。(ダヴィッドの描いた絵で、最も知られている作品といえば、こちらかもしれない。)


ダヴィッド「自画像」(1794)

彼は若い画家の登竜門であるローマ賞に4回失敗して、25歳のときに初受賞する。ローマ留学中も自分の絵の模索を続け、帰国後は次々と作品をサロンに出品した。その頃はまだフランス革命前で、ダヴィッドは王家や貴族の注文で歴史画や肖像画を描いていたが、革命が近くなってきたころに、王室が望むテーマとは異なった、結果的に共和政に与するようなテーマの絵を無断で描いた。
当然、アカデミーからは目をつけられるが、ダヴィッドは我を通しアカデミー内で既存のアカデミーに不満を持っている人間をまとめる役をひきうけたりして、本人が自覚していたどうかは分からないとはいえ、時代の趨勢に乗るのである。
そして革命が勃発し、ダヴィッドは終始徹底した急進派として行動した。ルイ16世の処刑にも賛成票を投じた。
テルミドールの反動で2度にわたって捕らえられたダヴィッドだが、ナポレオンが台頭し、彼は美術の政治的効用とダヴィッドの力量を知っていたナポレオンの庇護を受けた。そしてナポレオンの帝政を支持し、皇帝の首席画家となった。
しかし、ナポレオン失脚後、彼はベルギーに亡命し、王政復古後のフランスへ戻ってくるように懇願されても断りつづけ、そこで晩年をすごした。

というわけで、簡単にダヴィッドの生涯について書いたが、ダヴィッドが猫の目のような当時の政府にとって、いかに大きい存在であったかは絵を見たらわかると思う。
このブログの画像には無いが、ダヴィッドはナポレオンが台頭する前に、フランス革命で殉教した人物を描いたり、今で言う国会の重要法案可決時の瞬間の絵を残そうとしたりと、本当に政治に密接に絡んでいるのだ。
その究極の形が、一番上にある「皇帝ナポレオン1世と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠」だと私は思う。ダヴィッドの代表作だが、ダヴィッド自身が好んだ画風、そしてナポレオンが望んだ「効用」をここまで忠実に表現した作品はないのではないか。ちなみに絵のサイズは縦6m以上・横ほぼ10mで、描かれている総勢200名におよぶ人物で主要な人物が誰なのかすぐに認識できるところなど、歴史画の傑作の名をほしいままにしていると思う。


ダヴィッド「サビニの女たち」(1799)

サビニ女の掠奪については以前プッサンのときにも触れたが、ダヴィッドの絵はサビニの人々が女性たちを取り戻そうとローマに攻め入る場面を描いている。すでにローマ人の妻になっている女性が、争いを制止しようとしているところが印象的だ。そしていかにも古典に学びましたといわんばかりの男性の裸体が、とても映えていた。


ダヴィッド「ホラティウス兄弟の誓い」(1794)

この作品はローマ建国時代がテーマで、ローマとアルバが争っていたとき、各々の国から三兄弟を決闘させて、ローマのホラティウス兄弟の一人が生還し、ローマが勝ったという話しなのだが、、、動乱のフランスでは絵にある古典云々よりも革命の解釈の方で有名だったかもしれないなぁと思う。
ちなみにこの絵のテーマの一つには、ホラティウス兄弟のうちの一人の妻が、闘ったアルバの兄弟を実の兄に持っていたりするという、やるせないものもある。というか、伝説?とはいえ建国にあたっては闘いばっかりしてるのか??ほんま。


ダヴィッド「パリスとヘレネの恋」(1788)

映画「トロイ」の元ネタになった「トロイア戦争」勃発の火種になった二人。この絵の二人の位置や優美なポーズは本当に見事。色使いもとても繊細だった。私はこれも傑作だと思うが、なにせダヴィッドの大作群がある部屋の中では、この作品ですらあまり目立たない。


ダヴィッド「セリジア夫人とその男児の肖像」(1795)

ナポレオン台頭の前、テルミドールの反動で捕らえられたダヴィッドだったが、自由になった際、彼はダヴィッド夫人の妹のセリジア夫人のもとに身を寄せいていたことがある。
身を寄せいていたというより、絵の感じからして、実際、家族と親密にしていたと表現する方が、いいかもしれない。セリジア夫人は、ダヴィッドが上の「ジョゼフィーヌ戴冠」の絵を制作している頃に亡くなったが、彼はおそらく相当悲しんだのではないか。
絵は自然な雰囲気で描かれた心地よい作品だと思うが、実は私はこの絵でダヴィッドという人の名前を知り、それからナポレオンが馬に乗って峠越えする絵と画家の名前が一致したのだ。ダヴィッドへの興味を「セリジア夫人とその男児の肖像」で得たということもあって、館内でもこの絵の前でじっとしている時間が長かったと思う。

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