風の数え方

私の身の回りのちょっとした出来事

真夜中のこと

2008年04月17日 | 清水ともゑ帳
夜中、外で物音がし、目が覚めた。
同じフロアーに住んでいる人が帰宅したのかもしれないと思い、もう一度眠ろうとした。
すると、リビングで寝ている犬が、こもった声で、「ウォンウォン」と吠えた。
私がちゃんとしつけられなかったので、よく吠えることは吠えるけど、夜中に吠えるのは雷が鳴っているときぐらい。

そのうち、犬ははっきりした声で、「ワンワン」と吠え出した。
おかしい、何か変だ。
私はベッドから起き上がった。
と、同時に犬は明らかに恐怖と警戒の声で、「ウォォォォーーン」と叫ぶように吠えた。
雷におびえている時以上の声。

私は恐る恐る寝室のドアを開け、リビングへ行った。
居間のドアの向こうに人影が透けて見える。
まっ、まさか! だって、ゆうべも戸締りをチェックして床に入ったのに……。
人影はゆっくりこちらに近づいてきて、ドアを開いた。
帽子を目深にかぶり、黒尽くめの服装をした男が、何かを言うように口を動かし、不適な笑いを浮べ、入ってくる。

夢じゃない、これ現実なんだ。
ギャッ、ギャッ、ギャーーーーー!!
声のたけを振り絞った。
犬も呼応するように、ギャン、ギャン、ギャンと吠える。
脳のどこかではほんのわずか冷静さも残っていて、私は警備会社への警報ボタンを押そうと手を伸ばした。


「俺だよ、俺! さっきから俺だって言ってるじゃん。お前の声にこっちがびっくりしたよ」
夫だった。
時計を見たら、三時半。
「お前、俺の制服姿知ってるじゃん。なんでそんなに驚くんだよぉ」
「こんな時間に家にいると思わないもん」
大声を上げた自分がおかしくて笑ってしまうけど、膝もガクガクと笑ったままで震えが収まらない。

夜勤の夫は、仕事にどうしても必要なものができ、家に帰ってきたのだった。
いつもならそんなとき、予め電話をくれるのだが、時間が時間なので、私を起こさないように気を使ってくれたらしい。
仕事に戻る夫を犬と一緒に見送りしたが、犬の警戒はなかなか解けなかった。

思いがけない出来事になんだか興奮してしまい、私も犬もまんじりとしない夜を過ごした。
今朝は寝不足気味だ。
絶叫したためか、喉がヒリヒリしている。
数時間後、夫が帰ってきたら、犬はどんな反応を示すだろうか。