日曜日、そろそろ寝ようかという時間、台所に立った。
そして、寝室へ行こうとしたとき、足の裏にベチョといやな感触がした。
足元を見ると、床に水溜りが……。
犬が粗相をしたのではないかと思ったら、その範囲の広いことにびっくりした。
1メートル四方ほどが水浸しになっている。
粗相は犬ではなくて冷蔵庫だった。
数ヵ月前から水漏れはしていたけれど、そんなにひどくはないので、そのまま使い続けていた。
もう、限界が来てしまったらしい。
翌日、家電量販店へ買いに行った。
私たち夫婦が熱心に冷蔵庫を見ているので、販売員の人が声をかけてくれた。
50代くらいの男性だ。
それぞれの製品の特徴をかいつまんで説明してくれる。
私たちが相談し始めると、その人は、すっと後ろへ下がり距離を置く。
しばらくしてまた様子を見ながら近づいてきて、私たちが疑問に思っていることなどに対して答えてくれる。
各メーカーのどの製品でも、よく知っている。
一つの答えの後ろ側に百の知識が感じられる。
でも、その豊富な知識を決して不必要に多く語ったりはしない。
私たちに見合った適量の情報を出しつつ、アドバイスも的確だ。
夫と私は二つの種類のどちらかにしようと絞り込んだものの、決定まではちょっと時間がかかった。
「あの、私はですね……」
遠慮がちに販売員の男性が話し始めた。
「毎晩、焼酎のロックを飲むんですが、この冷蔵庫で作る透き通った氷を入れて飲むとおいしいんですよ」
うれしそうに語るその笑顔で、私の気持ちが決まった。
私にとって氷が透き通っていてもいなくてもよかったけれど、実際に使っている人の、消費者としての満足感が伝わってきた。
「これにすっか」
夫も同じように気持ちが傾いたようだった。
12年間使ってきた冷蔵庫は、今日の午前中でお別れになる。
お疲れさま、そして、ありがとう。