1965年
十三日夜、無名のプロ野球選手がテレビの30分番組の主役として登場した。題名は栄光なき力投、主人公は阪神のバッティング・ピッチャー織田光正選手だった。織田投手は四国の観音寺一高から阪神へ入団、ことしでプロ生活六年目になる。織田が金田前監督からバッティング投手を命令されたのが四年前のこと。それ以来、投げる機械になってしまった。一軍にもウエスタンの試合にも、彼の名前は出ない。だが、チームにとってはかけがえのない背番号46なのだ。超満員の観衆をのんだ巨ー神戦の甲子園球場、合宿でテレビ観戦する孤独の男ー織田ー両極端だが、いずれもプロ野球の世界に生きる男の姿である。テレビは非情な勝負の世界を生々しくえぐり出し花やかなフットライトを浴びるプロ野球の舞台裏を冷たく追っていく。「そりゃボクだってこれまで何度もこの世界から足を洗いたいと思いましたよ。将来に希望が持てないということがどんなに苦しいものか、それは同じ立場に立ってみなくては理解できません」織田は救いを新興宗教に求めた。一心に祈る織田の横顔。二十三歳の若さで信仰の道を選ばねばならなかった織田の心境が見るものをグイグイ引っ張っていく。「プロ野球の世界は花やかなものだとばかり思っていました。だがその舞台裏がどんなに孤独なものか、いろいろ参考になりました」とテレビをみた人々は勝負の世界を再認識していた。
十三日夜、無名のプロ野球選手がテレビの30分番組の主役として登場した。題名は栄光なき力投、主人公は阪神のバッティング・ピッチャー織田光正選手だった。織田投手は四国の観音寺一高から阪神へ入団、ことしでプロ生活六年目になる。織田が金田前監督からバッティング投手を命令されたのが四年前のこと。それ以来、投げる機械になってしまった。一軍にもウエスタンの試合にも、彼の名前は出ない。だが、チームにとってはかけがえのない背番号46なのだ。超満員の観衆をのんだ巨ー神戦の甲子園球場、合宿でテレビ観戦する孤独の男ー織田ー両極端だが、いずれもプロ野球の世界に生きる男の姿である。テレビは非情な勝負の世界を生々しくえぐり出し花やかなフットライトを浴びるプロ野球の舞台裏を冷たく追っていく。「そりゃボクだってこれまで何度もこの世界から足を洗いたいと思いましたよ。将来に希望が持てないということがどんなに苦しいものか、それは同じ立場に立ってみなくては理解できません」織田は救いを新興宗教に求めた。一心に祈る織田の横顔。二十三歳の若さで信仰の道を選ばねばならなかった織田の心境が見るものをグイグイ引っ張っていく。「プロ野球の世界は花やかなものだとばかり思っていました。だがその舞台裏がどんなに孤独なものか、いろいろ参考になりました」とテレビをみた人々は勝負の世界を再認識していた。