1981年
昨年の夏、秋ともにベスト4に進出。着実に力をつけてきており、今大会も大黒柱藤本投手が健在で有力校のひとつにあげられる。エース藤本は県高校球界を代表する速球投手。180㌢の上背を利して真っ向から投げ込む速球は威力十分で、時に高め球には力があって、これをとらえ切るのは簡単でない。速球がいいのでカーブも他投手以上に効果がある。この二つがうまくミックスされると、いかに強力打線といえども攻略は簡単ではないが、難点は制球力の物足りなさだ。特にカーブはスッポ抜けたり、バウンドしたりといったケースが目立つ。大会への調整課題は制球力アップに尽きる。
「やっぱり、精神力に尽きるでしょう。ここ一番に踏んばれない。追いかける力がないんです」0-6、右の本格派藤本を擁し、ようやく「ねらえる力」を備えてきたと思われていた安芸工、無念の敗退である。池内英夫監督の表情は、やりきれなさを映してなんとも複雑だ。「まず、相手は藤本でしょう。先行したら4~5点はいける気もする」とは、高知・岡本監督の試合前の談話だ。ズバリ、予想通りにゲームを運んだ格好だが、安芸工のエース藤本にすれば、初回の一球がなんとも痛い。「もちろん、藤本1本でいきます。一、二回をうまく(0点で)抜ければ、あとはリズムに乗ってくれると思います。カーブが決まれば、そう打たれんでしょうね」(安芸工・池内監督)その願いは、初回早くも崩れた。簡単に二死、カーブも決まって快調の滑り出しに見えたのだが、続く森本に死球、次打者にはストライク一つの死球を与えてしまう。「制球が課題」-マウンドの藤本に、ふと不安がよぎったのかもしれない。警戒すべき高知の五番宮脇への第一球は、ボールを置きにいく感じの外角高めストレート。右越えの三塁打になってもちろん走者一掃だ。「真っすぐが高めへ入って…。でも、あの2点で抑えるつもりやったんです」と藤本。事実、二回からは県内屈指の本格派らしい、けれん味のないピッチングを見せ、六回まで高知打線を、安打なしで完封する。二、四回には自ら中前打してチャンスの芽をつくるのだが、高知・田中の、かなり気をよくしてのピッチングに後続なし。「あと1点もやれない」と、懸命に踏んばるのだが、いったん高知に向いた流れを変えられない。右手中指には新しいマメが出来ていた。投げるたびに、ジーンとする痛みが伝わってくる。七回、一死から3連打を喫し、致命傷の3点めを献上してしまう。逆転の望みは消え、藤本にもう踏んばる力は残っていなかった。九回、マウンドには二年生の山本実が送られ、一塁に回った藤本のバットは、カーブにむなしく空を切って安芸工の夏は終わった。昨年の大会は、事実上のエースとして投げ抜き、チームもベスト4に進出している。はっきりAクラスと認められて臨んだこの夏、あっけなく初戦で消えた安芸工…。「ボクとしては抑えるつもりで投げた。悔いは残るけど、相手が高知だから‥」「仕方ない」と藤本はいわなかった。チーム創設(48年)から九年、「精神力、それだけですよ。力そのものはどこと比べても変わらんと思う。あすから出直しです」十年めに向けて、池内監督は語気を強めていた。