1963年
北海高は今夏の甲子園大会準々決勝で久留米商に敗れて姿を消した。松谷が五回に二塁スライディングをしたとき左足をベースに引っかけ、足首を骨折して退場したのが痛かった。もし、こんなことがなかったら勝ち進んでいたかも知れない。松谷はそれくらいの力を持っている投手だ。北海道の選手は気候的なハンディからトレーニングが不足し夏の大会には意外にかんたんにへばってしまう。しかし、甲子園で見た松谷は、いままでの北海道選手にない体力と根性があった。冬の間も相当にからだをきたえたものらしい。背があり骨格もがっちりしていて、先天的に肉体的な条件にめぐまれたことも見のがせない。上背を生かして上手から投げる球はかなりスピードがあり、威力もある。しかし、どちらかといえばサウスポー特有の外角低目に流れるシュート気味の球が多い。内角の球はいわゆる切れこむ鋭さがもうひとつものたりない。この点では内角低目への角度のあるストレートを持っている林(中京商ー南海)の方が一枚上手だ。松谷の場合、シュートを生かすためにも、もっと内角球に威力をつけて、内、外角をゆさぶるコーナーワークをものにしてほしい。いまのように外角球の多いピッチングでは打者にとってもそれだけねらいやすくなり、せっかくのシュートを生かしきれない。松谷は上背のある選手のわりには腰が強いけれども、上半身はやや堅い感じがする。バック・スイングからステップに移るまでからだの力を抜くことをもうひとくふうしてほしい。投手としてのタイプはまったくちがうが、加藤(作新学院ー中日)はムチのようにやわらかく、腰も安定しているので球を離すポイントがしっかりしている。松谷の上半身にあのやわらか味がついてくれば、内角低目に切れこむ球も自然に身について、ピッチングに幅ができる。林や加藤にもいえることだが、松谷も打者と真正面から勝負して、ごまかしのピッチングをしないのは非常にいい。いまでは北海道という地理的なハンディから十分に投げこんでいるとはいえない。それだけにピッチングの時間をたっぷり持てる松谷の今後は大いにたのしみだし、また成長株といえよう。
北海高野球部長 飛沢栄三
からだは非常に大きいが人一倍さびしがり屋で、もの静かな子だった。だがいったんユニホームに着がえると見違えるように競争心を起こし、がむしゃらになる子なので、いい選手になると思った。松谷君がウチの学校(北海高)にきたのは一年の十月だった。それまでは日高の静内高にいたのだが、どうせ野球をやるのなら名門の北海高へ、ということで一家そろって札幌に引っ越してきたということだ。道大会予選の静内高の試合で、代打に出てきてそのままリリーフした一年生の松谷君を見て他の学校には補欠でもいい選手がいるもんだなと感心したものだった。その選手がその年の十月に、北海高に転入しましたから野球部に入れてください、ときたときはびっくりして声も出なかった。ことし春の選抜で、御所工に負けたとき私のところに松谷を投げさせるなという投書がたくさんきた。最初は握りつぶしていたが、あまりにたびたびくるので、いっそ本人に見せた方が刺激になっていいと思い見せたところ、その翌日から朝五時ごろからグラウンドへ出て、バックネットにマットをつくってひとりでピッチング練習をするようなシンの強い子だ。
北海高は今夏の甲子園大会準々決勝で久留米商に敗れて姿を消した。松谷が五回に二塁スライディングをしたとき左足をベースに引っかけ、足首を骨折して退場したのが痛かった。もし、こんなことがなかったら勝ち進んでいたかも知れない。松谷はそれくらいの力を持っている投手だ。北海道の選手は気候的なハンディからトレーニングが不足し夏の大会には意外にかんたんにへばってしまう。しかし、甲子園で見た松谷は、いままでの北海道選手にない体力と根性があった。冬の間も相当にからだをきたえたものらしい。背があり骨格もがっちりしていて、先天的に肉体的な条件にめぐまれたことも見のがせない。上背を生かして上手から投げる球はかなりスピードがあり、威力もある。しかし、どちらかといえばサウスポー特有の外角低目に流れるシュート気味の球が多い。内角の球はいわゆる切れこむ鋭さがもうひとつものたりない。この点では内角低目への角度のあるストレートを持っている林(中京商ー南海)の方が一枚上手だ。松谷の場合、シュートを生かすためにも、もっと内角球に威力をつけて、内、外角をゆさぶるコーナーワークをものにしてほしい。いまのように外角球の多いピッチングでは打者にとってもそれだけねらいやすくなり、せっかくのシュートを生かしきれない。松谷は上背のある選手のわりには腰が強いけれども、上半身はやや堅い感じがする。バック・スイングからステップに移るまでからだの力を抜くことをもうひとくふうしてほしい。投手としてのタイプはまったくちがうが、加藤(作新学院ー中日)はムチのようにやわらかく、腰も安定しているので球を離すポイントがしっかりしている。松谷の上半身にあのやわらか味がついてくれば、内角低目に切れこむ球も自然に身について、ピッチングに幅ができる。林や加藤にもいえることだが、松谷も打者と真正面から勝負して、ごまかしのピッチングをしないのは非常にいい。いまでは北海道という地理的なハンディから十分に投げこんでいるとはいえない。それだけにピッチングの時間をたっぷり持てる松谷の今後は大いにたのしみだし、また成長株といえよう。
北海高野球部長 飛沢栄三
からだは非常に大きいが人一倍さびしがり屋で、もの静かな子だった。だがいったんユニホームに着がえると見違えるように競争心を起こし、がむしゃらになる子なので、いい選手になると思った。松谷君がウチの学校(北海高)にきたのは一年の十月だった。それまでは日高の静内高にいたのだが、どうせ野球をやるのなら名門の北海高へ、ということで一家そろって札幌に引っ越してきたということだ。道大会予選の静内高の試合で、代打に出てきてそのままリリーフした一年生の松谷君を見て他の学校には補欠でもいい選手がいるもんだなと感心したものだった。その選手がその年の十月に、北海高に転入しましたから野球部に入れてください、ときたときはびっくりして声も出なかった。ことし春の選抜で、御所工に負けたとき私のところに松谷を投げさせるなという投書がたくさんきた。最初は握りつぶしていたが、あまりにたびたびくるので、いっそ本人に見せた方が刺激になっていいと思い見せたところ、その翌日から朝五時ごろからグラウンドへ出て、バックネットにマットをつくってひとりでピッチング練習をするようなシンの強い子だ。