1968年
大西譲治投手…1㍍86、86㌔、右投げ右打ち、河合楽器
・大西投手は西沢監督が「ワーッ、でっかいなあ」と目を丸くするほどの長身で、いかにも投手というタイプ。松山北高から今春、河合楽器に入社して十月まで野球部に籍を置いた。ボールがすっぽりと握れるため、上手からの速球とフォークボールを武器にする本格派。「高校一年生のつもりで基本から教えてもらい、一生懸命がんばります」と話していた。
ブルペンで大西がピッチングを始めると、大島コーチはもちろん水原監督までが、必ず姿を見せてじっと注視する。投手陣はピッチングを初めてちょうど五日目、調整期間としてはやっとエンジンがかかりだしたていどだ。ところが大西の速球は群を抜いて恐ろしく速い。しかも球質は重そうで、受ける吉沢のミットからはズシン、ズシン。鉛のタマを受けているような鈍い音が出る。「ヨシッ、その調子だ」「首を振るな。肩の力を抜け」大島コーチの声もはずんでいる。長身をのびあがるようにして真上から投げおろすフォームは、まるで二階から球がくる感じさえする。大西が首脳陣に注目されたのはキャンプ前、名古屋の東山周辺で行われた合同自主トレのときである。石段のぼりをやらせてもトップ。ロードワークをやらせても一番。体力づくりの段階で、何をやらせてもとび抜けた強さを発揮する大西を見た大島コーチは、まず強じんな体力にほれ込んだ。それからスピードのあることを耳にすると、実際に合宿所で投げさせて確かめたうえ、水原監督に進言したのがキッカケとなった。大西は昨年、ウエスタン・リーグの阪急戦に1試合だけ登板した。しかし結果は死球2で降板という、さんざんなものだった。それいらい、制球難というラク印を押されたまま、チーム内で相手にされなかった。しかしことしは投手陣再建策の一つとして、若い芽をどんどんのばそうと努める大島コーチの目に、投手の第一条件である足腰、腕力の強い大西がとまったのは、当然なことだった。大西は体力だけでなく、てのひらも驚くほど大きい。親指の先から小指の先まで二十六㌢。フォークボールでならした杉下投手より一㌢大きく、タマがすっぽり入ってしまう。水原監督はこんな大西について「体格はいいが、まだなんともいえん。これからのびるかどうかは、本人の心がまえ一つだ」と多くを語らない。だがそういったあと「コーファックスだって初めはノーコンで、とても使えるとは思えなかったんだ」というあたり、ひそかに第二のコーファックスを期待しているようだ。
では技術的にどうなのか。大島コーチは「まだ上体だけにたよった投げ方をしていてフォームはアンバランス。首も振りすぎて悪い。ヒザを使うコツ、肩の力を抜くことなど、とにかくいまの練習で基本からやらなくてはならないし、本人はむろん、コーチとしても根気よくやらなければならない」と点数はからい。たしかにタマは速いが、ときおりすっぽ抜けて捕手のミットとは単体のとんでもない方向に投げることもある。シロウト目にも荒削りという感じは隠せない。首脳陣のことばとは逆に、キャンプを訪れた評論家の大西評はなかなかいい。鶴岡氏(元南海監督)は「いいじゃないか。立派なからだをしている。鍛えがいがあってたのもしい金の卵だ」といい、本誌評論家の榎原好氏もも「大きいわりにバランスがとれている。基本をみっちりマスターさせたら、案外ものになりそうだ」といっている。大西の国籍は日本だが、父親をアメリカ人に持つ混血青年である。父は朝鮮動乱で行方不明になったままいまだに消息不明。家族は愛媛県の伊予市に住む母親富美子さんと2人きり。性格はまじめで混血という暗い面はどこにもない。中学時代からいやなことがあると、目標を決めてとにかく走ったそうだ。走ることは苦しくても、それで悩みを忘れたという大西は人一倍のがんばり屋でもある。松山北高ーノンプロ河合楽器からとびこんできた異色の大西が、果たしてキャンプでどんな成長をみせるか。中日投手陣のハプニングになるか。とにかく楽しみである。
大西譲治投手…1㍍86、86㌔、右投げ右打ち、河合楽器
・大西投手は西沢監督が「ワーッ、でっかいなあ」と目を丸くするほどの長身で、いかにも投手というタイプ。松山北高から今春、河合楽器に入社して十月まで野球部に籍を置いた。ボールがすっぽりと握れるため、上手からの速球とフォークボールを武器にする本格派。「高校一年生のつもりで基本から教えてもらい、一生懸命がんばります」と話していた。
ブルペンで大西がピッチングを始めると、大島コーチはもちろん水原監督までが、必ず姿を見せてじっと注視する。投手陣はピッチングを初めてちょうど五日目、調整期間としてはやっとエンジンがかかりだしたていどだ。ところが大西の速球は群を抜いて恐ろしく速い。しかも球質は重そうで、受ける吉沢のミットからはズシン、ズシン。鉛のタマを受けているような鈍い音が出る。「ヨシッ、その調子だ」「首を振るな。肩の力を抜け」大島コーチの声もはずんでいる。長身をのびあがるようにして真上から投げおろすフォームは、まるで二階から球がくる感じさえする。大西が首脳陣に注目されたのはキャンプ前、名古屋の東山周辺で行われた合同自主トレのときである。石段のぼりをやらせてもトップ。ロードワークをやらせても一番。体力づくりの段階で、何をやらせてもとび抜けた強さを発揮する大西を見た大島コーチは、まず強じんな体力にほれ込んだ。それからスピードのあることを耳にすると、実際に合宿所で投げさせて確かめたうえ、水原監督に進言したのがキッカケとなった。大西は昨年、ウエスタン・リーグの阪急戦に1試合だけ登板した。しかし結果は死球2で降板という、さんざんなものだった。それいらい、制球難というラク印を押されたまま、チーム内で相手にされなかった。しかしことしは投手陣再建策の一つとして、若い芽をどんどんのばそうと努める大島コーチの目に、投手の第一条件である足腰、腕力の強い大西がとまったのは、当然なことだった。大西は体力だけでなく、てのひらも驚くほど大きい。親指の先から小指の先まで二十六㌢。フォークボールでならした杉下投手より一㌢大きく、タマがすっぽり入ってしまう。水原監督はこんな大西について「体格はいいが、まだなんともいえん。これからのびるかどうかは、本人の心がまえ一つだ」と多くを語らない。だがそういったあと「コーファックスだって初めはノーコンで、とても使えるとは思えなかったんだ」というあたり、ひそかに第二のコーファックスを期待しているようだ。
では技術的にどうなのか。大島コーチは「まだ上体だけにたよった投げ方をしていてフォームはアンバランス。首も振りすぎて悪い。ヒザを使うコツ、肩の力を抜くことなど、とにかくいまの練習で基本からやらなくてはならないし、本人はむろん、コーチとしても根気よくやらなければならない」と点数はからい。たしかにタマは速いが、ときおりすっぽ抜けて捕手のミットとは単体のとんでもない方向に投げることもある。シロウト目にも荒削りという感じは隠せない。首脳陣のことばとは逆に、キャンプを訪れた評論家の大西評はなかなかいい。鶴岡氏(元南海監督)は「いいじゃないか。立派なからだをしている。鍛えがいがあってたのもしい金の卵だ」といい、本誌評論家の榎原好氏もも「大きいわりにバランスがとれている。基本をみっちりマスターさせたら、案外ものになりそうだ」といっている。大西の国籍は日本だが、父親をアメリカ人に持つ混血青年である。父は朝鮮動乱で行方不明になったままいまだに消息不明。家族は愛媛県の伊予市に住む母親富美子さんと2人きり。性格はまじめで混血という暗い面はどこにもない。中学時代からいやなことがあると、目標を決めてとにかく走ったそうだ。走ることは苦しくても、それで悩みを忘れたという大西は人一倍のがんばり屋でもある。松山北高ーノンプロ河合楽器からとびこんできた異色の大西が、果たしてキャンプでどんな成長をみせるか。中日投手陣のハプニングになるか。とにかく楽しみである。