1967年
六日、西宮市・甲子園近くのグラウンドで山下投手は軽くピッチングした。見つめる秋山コーチはきびしい表情、大器だけにかなり注文も多いらしい。アドバイスにひとつひとつうなずく山下の姿が目をひく。スリークォーターとアンダーハンド。二種類のボールを投げわける。重く打ちにくそうなボールがコントロールよく、土井コーチのミットに吸い込まれる。秋山コーチは首脳陣の「「山下登板はいつか」の質問にはいっさいノーコメント。「だんだんよくなっている」とだけいい、微妙な発言を続けている。本人に聞いてみると「コンディションは上々。いつでもマウンドに上がれる姿勢」と強気な構え。控えめな山下が投げまくりたいというのは珍しい。そのことばからは「登板OK」の姿勢がうかがわれる。三原監督は「まだオープン戦に登板していないが、練習より実戦派投手のような印象を受ける」という。慎重な発言の裏にはシートバッティングですでにテストずみの含みがあるからだ。土井コーチは「フリーバッティングとシートバッティングとではマウンドに上がったときの態度が違う。打者との駆け引きは堂にいっている。変化球と速球のコンビネーションがうまい」とほめている。草薙キャンプ入り当時の周囲の空気とはがらり変わってきている。というのはキャンプ入りごろの山下は試験のせいもあって、スローテンポ。一時は評判倒れの声が出始め、フォーム矯正か、とさえいわれたこともあった。ところ、そんな雑音には耳をかさず、じっくりとマイペースで整調をあせらなかった。これは彼の非凡さを示す一面だろう。いまでは「オープン戦で投げて自信をつけ、本番に備えたい」とひたすら登板チャンスをうかがっている。
六日、西宮市・甲子園近くのグラウンドで山下投手は軽くピッチングした。見つめる秋山コーチはきびしい表情、大器だけにかなり注文も多いらしい。アドバイスにひとつひとつうなずく山下の姿が目をひく。スリークォーターとアンダーハンド。二種類のボールを投げわける。重く打ちにくそうなボールがコントロールよく、土井コーチのミットに吸い込まれる。秋山コーチは首脳陣の「「山下登板はいつか」の質問にはいっさいノーコメント。「だんだんよくなっている」とだけいい、微妙な発言を続けている。本人に聞いてみると「コンディションは上々。いつでもマウンドに上がれる姿勢」と強気な構え。控えめな山下が投げまくりたいというのは珍しい。そのことばからは「登板OK」の姿勢がうかがわれる。三原監督は「まだオープン戦に登板していないが、練習より実戦派投手のような印象を受ける」という。慎重な発言の裏にはシートバッティングですでにテストずみの含みがあるからだ。土井コーチは「フリーバッティングとシートバッティングとではマウンドに上がったときの態度が違う。打者との駆け引きは堂にいっている。変化球と速球のコンビネーションがうまい」とほめている。草薙キャンプ入り当時の周囲の空気とはがらり変わってきている。というのはキャンプ入りごろの山下は試験のせいもあって、スローテンポ。一時は評判倒れの声が出始め、フォーム矯正か、とさえいわれたこともあった。ところ、そんな雑音には耳をかさず、じっくりとマイペースで整調をあせらなかった。これは彼の非凡さを示す一面だろう。いまでは「オープン戦で投げて自信をつけ、本番に備えたい」とひたすら登板チャンスをうかがっている。