1996年
最後の打者を直球で空振り三振に仕留めると、激しくガッツポーズをした。三塁を踏ませぬ好投で、プロ入り初完封を決めた。一回、イチローに中前安打を打たれ、すかさず盗塁を決められた。浮足立つ場面だが、「まだ初回だ」と気持ちを入れ替える。切れのある直球で、後続を三連続空振り三振に打ち取った。今年から覚えたチェンジアップと緩いカーブを見せ球に使い、勝負球は直球で押した。球速は137、8㌔とさほど速くはないが、球離れが遅く、タイミングが取りにくい。球質も重く、ことごとくつまらせた。ローテーション入りが期待されていたが、9試合目の十三日のロッテ戦まで、登板機会がなかった。首脳陣が、昨年、防御率2点台と相性が良かったロッテとオリックス戦から投げさせて調子付かせようと考えたからだ。その、思いやりの起用法に、2連勝という結果でこたえた。「今年は、気持ちの揺れとフォームの両方の安定に心掛けている」昨年からトレードマークとなっていたスキンヘッドはやめ、髪の毛を伸ばし始めた。外見で目立つのではなく、成績で目立つように、だ。
首位攻防戦の第1ラウンドを、その右腕で制して見せた。プロ二度目の無四球完封試合でもある。「後ろの投手がしっかりしているし、自分が行けるところまで行くことしか考えていない」ツキもあった。一回二死一塁。クラークの右中間を破った打球が、ワンバウンドしてフェンスを越えた。エンタイトル二塁打に救われて、同店を免れている。しかし、ひやりとさせたのはその回だけだ。「例えばスライダーを狙われていても打たれない。ぐっと曲がったり、大きく曲がったり、切れ味の違う二種類の変化球があるようだった」と捕手の野口が目を丸くした。球数わずか96球。一昨年は自己最多の11勝を稼いだが、昨季は1勝どまり。今季も開幕一軍に漏れた。プロ六年目の二十七歳。慢心がなかったとはいえない。「今関を変えたのは危機感だろう」そう上田監督は見ている。初の無四球完封試合は一昨年の65試合目だった。そしてこの夜も今季65試合目。「偶然でしょう」と、かすかに笑った今関の復活で、日本ハムは手薄だった先発陣のコマがそろった。