こうなったら、もうやるしかない。
8時前、蒲団の上で目が覚めてそう思った。
昨日楽家から帰ってきて、シャワーを浴びたとき、
体重を計ると75キロだった。
私は、唖然とした。
そりゃ、ここのところ太ってきたなとは考えていた。
それにしても…。
人生は皮肉だ。
肉体労働がイヤでイヤでしかたなかったとき、
体は痩せていてスマートで快適だった。
煙草をやめたことがいけなかったか。
いや、今さら煙草を吸うわけにはいかない。
それで、ウォーキングをやることにした。
なんてことはない。ただの散歩です。
起きてきた女房にいうと、鼻で嗤った。
私はTシャツに半ズボンという姿で家を出た。
サンダルにしたかったが、きちんとスニーカーをはいた。
ティッシュとケータイを取りに一度家に戻った。
私は鼻炎で、いつでも鼻をかむ状態になる。
家を出て駅前の交差点を渡って、
ディニーズのある方向に歩いた。
居酒屋「天狗」の角を曲がって緑町四丁目に向かう。
以前暮らした公団住宅のあたりを見たかった。
むかし馴染みになっていた
居酒屋の「すずき」の前を歩く。
そこからと、むかし借りていた駐車場から推し量って、
以前の住まいのあったところを推測した。
そこは建物と建物の間の駐車場になっていた。
あのあたりで、おれたち家族4人は、
ささやかだが精一杯に暮らしていた。
公団の建て替えのために、
引っ越したのは息子たちが中3だった。
いろんな場面を思い出し胸が熱くなった。
こんなことを女房にいうと、
「あんたはまったく、くさいんだから」
とバカにされてしまう。
30分ぐらいたった頃、ケータイが鳴った。
女房からだった。
「今どこ?」
「行政道路のマクドナルドの近くだ」
「私、中央公園でフラメンコの練習したいから来て」
「なんで、おれはこれから
スーパーオザムのほうに行こうと思ってたんだ」
「ひとりじゃ踊ってるの恥ずかしいの。来て」
中央公園は私の住んでる公団住宅の隣にある。
マクドナルドから駅に向かう途中の右側だ。
10分もかからないで着いた。
公園を歩いていると、ゴミを拾っているおじさんがいた。
公園には、昨日した花火の残りとか煙草の吸い殻、
ペットボトルとかいろいろゴミがあった。
なかなか女房が見つからないのでケータイをかけた。
話しはじめたら「ここよ、目の前よ」といわれ
手を振ってる女房に気がついた。
女房がスタジオ練習で録音したテープをかけて踊る。
私は休んではいけないので、その廻りを歩く。
なんというへんな組み合わせだ。
そのうちさっきのゴミを拾っていたおじさんが来た。
私が女房の踊りの批評をしていると、
「これはなんという踊りですか。
スペインのほうの踊りですよね」
「そうです。フラメンコっていいます」
女房が答える。
「もう一度踊って見せて下さい」
そうおじさんがいった。
女房は真面目な顔をして踊り始めた。
終わると、
「ありがとうございました。
いいもの見せていただきました」
とおじさんは頭を下げ歩いていった。
そして、落ちてるゴミを拾っていた。
私にああいうこと出来るかな、と考えた。
女房も私も汗びっしょりだ。
最近出来た「湯楽の里」というスーパー銭湯に行った。