ホントの話―誰も語らなかった現代社会学 全十八講小学館このアイテムの詳細を見る |
呉智英氏については、大昔に「朝まで生テレビ」にコメンテーターとして出演していたのを見たことがある程度だったが、その道ではたいへんに評価されている評論家であるようだ。(Wikipediaでの紹介はこちら)
この本は、90年代の後半に雑誌連載した内容を加筆・章立てし直しをしたもので、筆者の持論が一通り述べられた内容になっているとのこと。
筆者は、人々が無自覚なまま時代のパラダイムに捉われて思考してしまっていることを暴こうと試みる。
特に槍玉に挙げられているのが「人権」と「民主主義」。
アプリオリに「尊いもの」として当たり前のように受け入れられている価値観を、所詮近代社会が創り上げた「制度」でしかない、と切り捨てる。
このあたりの鋭い視点と語り口はさすがで、特に、民主主義の「無責任」性を株式会社とのアナロジーで述べた第四講はなかなか興味深かったし、死刑の犯罪抑止力(※筆者は、「仇討ち」復活論者)や、政治・宗教の本質について語ったくだりも、目を開かれる思いがした。
一方で、中盤以降、ナショナリズムや民族差別について論じた部分は、いまいち面白みに欠けるように感じた。
「中国を支那と呼ぶことは差別ではない」という筆者の持論にも、かなりの紙面が割かれている。
その論理には基本的にうなずかされるんだけど、ややクドイ。
後ろの方に読み進めるにつれ、理屈っぽいというか、頭でっかちな印象が強る感じがした。
そういう意味ではやや一本調子なのかもしれない。