イン・ザ・プール (文春文庫)奥田 英朗文藝春秋このアイテムの詳細を見る |
奥田英朗の本は、以前に読んだ私小説風青春小説「東京物語」が非常に佳かったんですが、「東京物語」のような作風はこの人にしては珍しいもので、奇抜な設定とキャラクターを生かしたコミカルな作品のほうが多いようです。
主人公は、色白で太った中年神経科医・伊良部一郎。
奇妙な病気にかかった患者たちが伊良部総合病院の地下にあるこの神経科を訪れ、伊良部一郎とセクシーな看護婦マユミに翻弄されていく…という5話の連作短編。
一見すると滅茶苦茶でまったく頼りにならなそうな伊良部なのに、患者たちは何故か毎日注射を打たれに神経科に通い、そして最後には…という同パターンが5話繰り返されます。
こういうのは”型”を一つ構築してしまえば、別のシチュエーションをその”型”に当てはめていくことで意外と簡単に書けてしまうのかもしれませんが、それにしても展開が見事。
患者たちが伊良部に弄ばれているうちにまったく意図しない方向から病状の変化が出る、その語り口は絶妙で、しかも後味も心地いい。
患者たちのキャラクターもよく作られており、「コンパニオン」の自意識過剰タレント、「フレンズ」のケータイ依存症高校生、「いてもたっても」の強迫神経症の社会派ルポライターなど、その”勘違い”ぶりは何だか生々しいほどで、その”勘違い”ぶりが矯正されていくさまを眺めていると爽快感さえ感じます。
この伊良部一郎というキャラクターは奥田英朗の定番キャラみたいですね。
「空中ブランコ」「町長選挙」あたりもぜひ読んでみたいと思います。
↓こっちもオススメです。
東京物語 (集英社文庫)奥田 英朗集英社このアイテムの詳細を見る |