「家庭教育」の隘路―子育てに強迫される母親たち本田 由紀勁草書房このアイテムの詳細を見る |
自分が著者のことを知ったのは、NHKの「爆笑問題のニッポンの教養」出演時でした。
太田光の挑発的な問いかけに激しい剣幕で真っ向勝負していたのが印象的でした。
共著した「「ニート」って言うな!」も話題になりましたね。
政府の教育再生会議で「親学」が議題に上るなど、昨今「家庭がダメだから子供がダメになるのだ」という趣旨の家庭教育責任論が活発化し、一方で家庭での教育をメインに取り上げる雑誌などが次々と創刊されるなど、「家庭教育」への関心が非常に高まっている状況にあります。
著者の問題意識は、限りある時間的・経済的リソースの中ただでさえ「正しい親であらなければならない」というプレッシャーにさらされている世の母親たちが、こうした「家庭教育」重視の風潮によりますます苦境に追い込まれていく状況が発生しているのでは、という点にあります(著者自身小学生の子供を持つ母親だということです)。
39名の小学生の子を持つ母親へのインタビューと、青年期の子供とその母親とのペアを対象にした質問紙調査データとを材料に、社会階層が家庭教育の在り方に影響を与える「格差」の問題、および、母親たちが子育てそのものの中で、或いは、自身の人生設計との間で直面している「葛藤」の実態をあぶり出していきます。
読み応えがあるのはやはり、かなりの紙幅が費やされているインタビューの部分です。
母親たちが何を考え何に悩みながら「家庭教育」に向き合っているのか。
分かったようで分かっていなかったことが赤裸々に生の声として込められています。
ウチのコドモはまだ教育前段階ですが、今後父親として或いは夫としてどのような配慮が必要になるのか、考えさせられるものがありました。
ポスト近代化社会では、単にテストで好成績を上げ高学歴を得ることが必ずしも社会的な成功を保証してくれはしない。
求められるのは知識や学力だけではなく、コミュニケーション能力や独創力などいわゆる「人間力」的なスキルが重視されることになります。
それじゃあ学歴は全く関係ないかというとそんなことはない。
ちゃんと勉強して学力を上げるとともに生活習慣や社会のルールを身につけるための「きっちり」した教育と、子供の個性に合わせて様々な体験をさせることで「人間力」を身につけさせる「のびのび」した教育が、どちらも必要とされるわけです。
ところがこの両者を両立させることはなかなかに難しい。
厳しく躾け過ぎればのびのびとした個性は育たないし、放任し過ぎれば規律は身に付かない。
そうしたアンビバレンスに母親たちは日々悩んでいるわけです。
正直、はじめに主張ありきでそれを裏付ける調査結果を組み立てた、という印象も多少はするんですが、結論には同意するし、調査結果の分析内容も興味深く、読んでよかったと思える一冊でした。