そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「4-2-3-1」 杉山茂樹

2008-05-22 22:53:37 | Books
4-2-3-1―サッカーを戦術から理解する (光文社新書 343)
杉山 茂樹
光文社

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話題の一冊。
かなり売れてるらしい。

「4-2-3-1」とはサッカーの布陣を示す表記方法。
数字が4つ並んでるところがポイントなんですね。
日本だと「3-5-2」「4-4-2」など「DF-MF-FW」の3段階の表記になる。
4段階で布陣を解釈しようという文化が存在しないわけです。
この時点ですでにギャップがある。

欧州のサッカーが戦術重視なのは、個人技ではブラジルに勝てないのが分かってるからだ、というのが著者の理解。
即ち、布陣・戦術というものは、弱者が強者に挑み勝利をものにするための手段、だと。
サッカーの世界では「弱者」である日本が、何ゆえ布陣・戦術というものに対してこんなにも無頓着・不勉強なのか、それでは強者に勝てるわけがないじゃないか、という強い憤りが沸々と伝わってきます。
ましてやジーコのように試合前日にスタメンを公表するような愚行には、開いた口が塞がらないとこき下ろします。

多彩な具体例をもって、布陣と戦術の実例が説明されていますが、もっとも強調されているのは「サイドを制する」ことの重要性。
ピッチの中央部にいれば周囲360度から敵がボールを奪いに来る。
タッチライン際であれば、ケアすべきエリアが半分の180度に減る。
また、ピッチ全体にワイドに拡がる陣形をとれば、相手の保持するボールにプレスをかけやすい→高い位置でボールを奪いやすい→効率的に攻めやすい。
「4-2-3-1」の「4」と「3」にそれぞれサイドプレーヤーを配し、左右それぞれ2人ずつで攻め守ることのメリットが繰り返し説かれます。
確かに、本の中でも紹介されてますが、オシム監督のときの日本代表で、左サイドに駒野と三都主を2人置いて効果的なサイド攻撃を繰り返した試合は自分も印象に残っています。

しかし、そうだとすると日本ではそういう布陣がどうして流行らないんですかね?
本当に、著者が言う通り、サッカー文化の低さゆえに、日本代表にしてもJリーグにしても監督の知見と能力に問題があるからということだけなんだろうか。
プレーヤーの方には問題ないんですかね。
まず優秀なサイドアタッカーの数が少ない。
また、サイドを厚くすればそれだけ中央が薄くなるわけで、例えば1トップが務まるだけの強靭さと巧さを兼ね備えたセンタープレーヤーがいない、とか。
あるいは、よく言われる話だけど「キャプテン翼」の影響で、日本では巧い選手はみんな「司令塔」役のポジションに偏ってしまう、とか。
人材がいないから布陣が限られるのか、布陣を工夫しないから人材が育たないのか…一概には言えそうにない気もします。

ここまで徹底してサッカーの布陣について語ったものを読んだことが無かったので、サッカー好きの素人としてはとても面白かったです。
クライフとかヒディンクとか、一流監督へのインタビューも豊富だし。
特にヒディンクに「トルシエは日本協会から幾らくらい年俸を貰っているのか?」と質問されて答えたら数日後に韓国代表監督に就任した、なんてエピソードが生々しくってよかった。
先般読んだ「日本人はなぜシュートを打たないのか?」とは全く異なる視点でのサッカー論ですが、それぞれにサッカーを観る楽しみを増してくれること請け合いです。
まあどっちにしてもテレビ観戦してるだけじゃサッカー観る目も養われないわけだけど…
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クライシスマネジメントかニュースバリューか

2008-05-22 21:02:30 | Economics

会社をダメにする“法令遵守” 野村証券はなぜ危機管理に失敗したのか 組織の生死を分けるクライシスマネジメント(日経ビジネスオンライン) - goo ニュース

 監査法人も証券会社も証券市場に対して重要な役割を果たすべき存在であり、構成員が業務上知り得た情報に基づいて株売買を行うことによる信頼の失墜、行為の社会的評価という点では同等である。

 ただ、新日本の事件は課徴金事件にとどまり、株売買全体では損失を出しているのに対して、野村の事件は行為者が逮捕され刑事事件になっていること、トータルではかなりの利益を上げていることなど、野村の事例の方が事件としてはより重大と言えよう。

 しかし、そのような行為に及んだのが、野村の場合は中国人社員という特殊性があったのに対して、新日本の事件の場合は数千人に及ぶ公認会計士職員のうちの1人であり、組織全体の信頼性に与える影響という面では、むしろ新日本の方が深刻と言えなくもない。

 ところが、事件が組織に与えた影響という面では決定的な違いが生じた。野村の事件がマスコミで連日大きく報道され、企業年金連合会、王子製紙など野村との取引の停止を打ち出す顧客が相次いだのに対して、新日本の方は日経新聞のスクープが一面で大きく取り上げられた以外はマスコミの取り扱いは比較的小さく、クライアント企業からの監査契約見直しの動きも全くない。

 この違いをもたらしたのは何だったのか。その大きな要因となったのが、クライシスマネジメントに対する姿勢と方法の違いである。

確かに、野村や(この記事の後ろの方で取り上げられている)NHKのインサイダー事件に比べると、新日本監査法人の事件は印象が薄いというか、ほとんど記憶から無くなりかけてたのは正直なところです。
筆者は、その違いがマスコミ対応をはじめとするクライシスマネジメントの巧拙から生じたものだと解説しています。
確かにそうなんでしょう。
マスコミが、企業(に限らないけど)不祥事を格好の餌食として待ち構えている世の中では、初動対応を適切にできるかどうかで負う傷口の深さも全然違ってくる。

ただ、誰でも知ってる野村證券やNHKのネームバリューに比べると、監査法人なんて一般人には馴染みがない存在である分、ニュースとしての価値が薄かった、という面もあるんじゃないでしょうか(これもまたマスコミの嫌らしさを表してはいますが)。
筆者は、新日本監査法人の事件の第三者委員会の委員長だったということで、若干手前ミソな印象を受ける記事ではあります。

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