またまた日が経ってからのエントリになりますが、7月8日(水)日経新聞朝刊・経済教室は、中川淳司・東京大学教授が筆者。
以下、メモ。
サブプライムローン危機の政界的拡大に無力だったIMF。
開始から8年近いドーハラウンド交渉に一向に妥結の糸口を見いだせないWTO。
筆者は、この事態を、戦後65年続いてきたブレトンウッズ・ガット体制の終焉として捉えています。
そもそも固定相場制を前提に国際通貨体制維持の監視を本来業務としてきたIMFは、ニクソンショックによる変動相場制への移行によりその性格を変質させた。
加盟国の国際収支上の困難に対する融資業務の重みは減り、世銀とともに、途上国や新興国、旧東側諸国の開発と市場経済移行を助言・支援する機関に変質した。
その結果、先進国はIMF・世銀の「顧客」から外れ、先進国間の通貨・金融制度、マクロ経済政策の協調・調整機能は、G7などの「先進国クラブ」が担うようになっていった。
一方、ガットやWTOでは、加盟国の大幅拡大により先進国クラブからグローバルな組織へと変容し、その結果かえって貿易自由化機能は低下した。
そうした大きな流れが解説された後、以下のように論じられます。
今回の危機はブレトンウッズ・ガット体制への重大な挑戦である。危機の規模はIMFの融資能力をはるかに超える。危機が実体経済に及んだため、苦境に陥る途上国はさらに増えやがて世銀の融資能力も超えるだろう。WTOは加盟国が危機対策として導入する保護主義的措置に警鐘を鳴らしているが、この種の措置は後を絶たない。
他方、通貨・金融制度とマクロ経済政策の協調・調整に関する先進国クラブの有効性にも陰りが見える。金融規制の不備が危機を招いたとして、昨年11月以来、金融サミットで規制強化が検討されているが、多くの国が国内対策に追われ、明確な方針を打ち出せていない。
ラクイラ・サミットでも何も実質的なことは決まらなかったようですしね。
で、以上のような現状認識の上で、それを克服するためにどのようなシナリオがあり得るのか?
筆者の見解では、ブレトンウッズ体制の補強による機能回復、新たな多国間体制の構築、いずれのシナリオも現実的でなく、既存の仕組みを統合し若干の新たな要素を加える「第3のシナリオ」しかないだろうとのこと。
考え方としては、通貨・金融、マクロ政策の調整の場として、先進国クラブとブレトンウッズ機構を機能的に統合し、貿易自由化分野ではWTOとFTAを機能的に統合して若干の新しい要素を加える。
具体的には、以下のアイデア。
・先進国クラブの通貨・金融制度とマクロ経済政策の協調・調整業務に利害関係者である金融業界の関与を認め、
・この新たな先進国クラブの協調・調整業務とIMF・世銀の監視・融資業務を統合し、
・WTOとFTAの貿易自由化業務に利害関係者である生産者・消費者の関与を認める。
これらが正しく、かつ、現実的な方策なのかどうかは分かりませんが、ドラスティックに変化している世界に、既存の制度が追い付くのはそう簡単ではないようです。