青い光が見えたから 16歳のフィンランド留学記 | |
高橋 絵里香 | |
講談社 |
小学生の頃に読んだトーベ・ヤンソンの「ムーミン谷」の物語に感銘して、フィンランドという国に留学することを夢見た少女が、中学卒業して実際にフィンランドの高校に単身留学して過ごした四年間を振り返った記録。
いくら何年もの間憧れを抱き続けた国とはいえども、16歳の少女が言葉も通じない極北の国にひとりぼっちで降り立った時の心細さといえば想像を絶するものがあっただろう。
が、暖かいホスト・ファミリーや教師・クラスメートに囲まれ、彼女は一つ一つ壁を乗り越え、フィンランドという国への愛を深めていく。
彼女の決断を、何の抵抗もなく受け容れ支援した両親からして、彼女自身そうした資質を養う家庭環境に育ったのだろうが、横並びの均質性と空気を読む協調性が尊ばれる日本社会とは正反対のフィンランド社会が、きっと彼女に合っていたのだろうとは思う。
自由と個人主義を尊重するフィンランド社会では、それと裏腹に厳格な自己責任と徹底した自由競争が求められる。
高校生でも、自ら望むキャリアを設計してカリキュラムを組み立て、それに沿って計画的に単位取得し、厳しい卒業試験をクリアしなければならない。
この本を読んでいると、穏やかで思いやりと愛情に溢れた人々ばかり登場するので、フィンランドという国が理想郷のように感じられてくるが、そうした自己責任と競争に馴染めない人には暮らしづらさもあるのだろうとは思う。
この本は2007年に発刊されたもので、当時フィンランドで進学して大学生だった著者も現在は30歳を過ぎているはず。
今、どこでどのような生活を送られているのだろう。
本書の中でも夏休みの帰国中に母校である中学校(彼女にとっては苦しい中学生時代を送った場所)を訪れて後輩たちにフィンランドでの留学生活を紹介する場面が出てくるが、彼女が得た貴重な体験を日本社会に還元してよい影響を与えてくれていたらいいな、と思う。
これからの日本社会には、そういった具体的で現実味の詰まったグローバル化が必要だろう。