サラバ! 上 | |
西 加奈子 | |
小学館 |
サラバ! 下 | |
西 加奈子 | |
小学館 |
話題の直木賞受賞作、売れてるみたいですね。
約40年間の家族の物語。
『北の国から』的とでもいいましょうか。
そして、エジプト生活を間に挟むことにより、物語は流浪性を帯び、また、イラン革命やバブル崩壊、2つの大震災、オウム事件、アラブの春などの社会事件を背景に描くことで時代感が創出される(主人公の姉弟は自分とほぼ同世代のため、このあたりは共感するところも多々あり)。
でも、何よりもこの物語は、父母姉や親族との葛藤、友人たちとの交わりを横糸に織り込みながら、主人公の少年が成長と挫折を重ねていく成長譚としての要素が大きいと感じる。
常に空気を読み、周囲との軋轢を避けることでそつなく無難に、それなりに楽しく人生を歩んできた主人公が、大人になってその歩みを狂わせていく。
対照的に、周囲に迎合することなく苦しみ続けながら生きてきた姉が、ついに達観の境地に到達し、厳しくも優しい言葉で、弟の人生の虚飾性にズバズバと切り込む、その件りがこの小説の白眉。
上下巻で700ページに及ぶこの大作を読み終えた時には、時の流れの壮大さと現実感の厚みに胸いっぱいになる一方、どこか寓話性を感じさせられるのも確か。
それは、主人公のキャラクタ設定が綿密なリアリティを湛えていながらも、どこか「女流作家が描いた男性像」を脱しきれていないところからくるのかもしれない。