日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち―(新潮選書) | |
板谷 敏彦 | |
新潮社 |
Kindle版にて読了。
べらぼうに面白い。
一気呵成に読んでしまった。
『坂の上の雲』の世界を重層的に理解することができる、というか。
日本軍は、ロシア軍の失策もありつつ激戦を制して日露戦争に薄氷の勝利を実現したわけですが、そうして戦争を継続するためには莫大な戦費が必要になる。
金本位制下であった当時、戦費調達の手段として外債の発行に頼るしかなかった一方、国際社会において一等国としてまだ認められていなかった(そしてロシアに戦争で勝てるとは全く予想されていなかった)日本が外債発行による資金調達を実現することは極めて困難な命題だったわけです。
そのミッションを担い、戦争期間中ほぼずっとロンドンを中心に欧米に滞在して工作・交渉にあたったのが高橋是清です。
高橋が、ロンドンのマーチャント・バンカーや米国のユダヤ資本とリレーションを構築し、戦況が有利になっていくのに乗じて有利な発行条件を勝ち得ていく過程が丹念に辿られていきます。
面白いなと思ったのは、旅順陥落、奉天会戦、日本海海戦など、日本軍が戦争のポイントとなる戦いに勝利しても、それが必ずしも外債価格に影響しないことがあるという点。
むしろ、ロシア国内で発生した血の日曜日事件や、バルチック艦隊が起こしたハル事件などのほうがむしろ影響が大きかったりする。
市場の目は常に冷静なわけです。
それに対して、熱狂しやすく移ろいやすく、そして制御しづらいのが世論の力。
当時の日本国民が戦況に一喜一憂し、新聞などのマスメディアが煽りたて、政治家たちもそれを御しきれない様子が描かれています。
高橋自身、初回の外債発行時には、有利な発行条件を勝ち得ることができなかったとして世論のバッシングを受けます。
ポーツマス条約で賠償金を取ることができなかった責任を負わされた小村寿太郎は、桂・ハリマン協定を破棄することに動く。
桂・ハリマン協定がそのまま実現していたとしたら、日本が満蒙権益に固執することはなく、その後の歴史は変わっていた…と言えるのか。
そのことに限らず、戦況にしても資金調達にしても、歴史の歯車が一つ狂って日本が日露戦争に敗れていたとしたら、いったいどうなっていたのだろう?
満州や朝鮮半島はロシアが支配し、日本は貧しい二等国の地位を強いられたかもしれない。
そして、その代わりに国際社会で孤立し第二次大戦で破滅的な道を歩むこともなかったかも…
いろんなことを考えてしまいます。