企業参謀 (講談社文庫) | |
大前 研一 | |
講談社 |
大前さんの超ロングセラー。
今回読んだ文庫版初版は1985年ですが、最初に出版されたのは1975年のようですね。
40年近く読み継がれているということだけで驚きです。
教科書的に体系だった構成にはなっておらず、取り上げられている事例にはさすがに時代感を憶えるところもありますが、内容は色褪せていません。
第一章の床屋についての分析はQBハウスの出現を予言しているかのようだし、以下の部分など…
低成長・不安定化というのは、ひとつの製品のライフサイクルにおいても見られる現象で、成熟期にさしかかった耐久財は、景気の変動を受けて大きくその需要が上下するのが特徴である。一国の産業においても、成熟期にはこれと類似の現象を起こしてくるのではないかと思われる。個人消費は一応充足しているので、不景気といわれれば様子を見ようという心理になり、金がないから需要がなくなるのではなく、買う必要もなく、買う気にもならないから自然に需要が減退する、という現象になる。
これは、従来の経済学でいわれていたインフレとデフレの繰り返し(景気循環説)の根底にあるマネーサプライという物理量による因果関係に比して、たぶんに心理的なものである。また、従来考えてられていた景気、不景気が資本主義経済の発展途上で、しかも経済の成長期に起こっていたものであるのに比して、今日の先進諸国が経験している不況は、成熟期にあるがための景気サイクルである、という点で大きな差があると思う。
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こうした意味で、遠からず、日本においても金融政策主導型の景気対策というものが必要となってくるはずである(あるいは、すでに70年代前半の不況についても、カタクナな公定歩合の維持が、不必要な混乱のもとになっているのかもしれない)。
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合板も靴も同じである。中国の七億人が第二次産業に集中してきたとき、労働集約型のものでわが国の方が有利なものは、輸送や保存ができないものに限られてきてしまうのは、当然の成り行きである。
まるで今のことを語っているんじゃないの?と錯覚しそうになるほどです。
こういうのを先見の明というんでしょうね。
こんなの見せつけられると一気に信頼度が増しちゃいます。
で、本題の企業経営に懸る戦略的思考プロセスについてですが、個人的に心に残ったところを以下列挙しますと…
・トップの主勢力は中期経営計画の立案と遂行に向けられるべし。日常業務はラインマネージャーに任せる。上から下まで全員が会社の命運に思い悩むべきではない。
・中期計画では「仮定」を明らかにしておく。そうすれば客観情勢が変化したとしても、「仮定」のうちいずれが影響を受けるのかを分析しやすい。
・製品の置かれた位置(業種の魅力度と自社の強さ)によって戦略を定めたら、首尾一貫した号令が出なければ真の効果は出ない。(例えば、設備投資を危険なほどやっておきながら販売戦略では投資を絞って販売会社に一任するなどといったチグハグなやり方を避ける。)
・競合状態の把握=「なぜ現在のようなシェアになっているのか」を把握すること。
・何よりも大切なのはKFS(Key Factors for Success)を把握すること。
・「これらの制約条件がなかったとしたらどのような可能性が出てくるか?」と考える。
・ホワイトカラーのブルーカラー化:一国の有する優秀なブレーンの数は有限。大企業がこれを独占すると中小企業に回らない。大企業はブレーンが有り余っているため、これを無駄遣いする。
そんなに特別なことが語られているわけじゃないんですけどね。
噛み締めてみます。