溜池通信で推薦されていたので読んでみた一冊。
著者は1933年生まれ、共同通信でワシントン支局長などを歴任し、アメリカを追い続けたベテランジャーナリスト。
著者のアメリカとの関わりの原点は、太平洋戦争時、疎開先の福井で大空襲に遭遇し、不良焼夷弾の不発により九死に一生を得た体験にあると言います。
この「敵」としてのアメリカという国との出会いが著者の中に深く刻まれ、ジャーナリストとなりアメリカ特派員となることを志し、1964年に夢叶ってニューヨーク特派員となります。
アメリカという国を一生をかけて追いかけている著者が、自身に強烈な原体験を与えた、アメリカに息づく「武力行使のDNA」の根源を探った力作です。
重点は大きく2点に置かれています。
メイフラワー号で新大陸を目指した最初の移民”ピルグリム・ファーザーズ”にまで遡ってアメリカという国の成り立ちを探り、「武力行使のDNA」の象徴たるアメリカ合衆国憲法修正第二条「規律ある民兵は自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有し、また携帯する権利は、これを侵してはならない」が現在にまで脈々と息づいている事実を浮き彫りにする前半部。
そして後半部では、著者の特派員としての実体験に基づき、ベトナム戦争の泥沼の中、共和党ニクソンが大統領選に勝利した1968年をアメリカ政治の「分水嶺」と捉え、ニューディール以来36年続いた「民主党リベラル政治の時代」が終焉を迎え、以降今に至るまで40年間「保守の時代」が続いていることを丹念に論じていきます。
アメリカという国の創成期の歴史を詳らかに学ぶことのできる前半も読み応えがありますが、やはり白眉なのは後半部、著者が自らブラックパワー運動の指導者や若き日のチェイニーやラムズフェルド、ネオコンの重鎮らと直接会って話を聞くなど、豊富な取材体験を元にまとめあげた、「アメリカの現代」についての時勢認識でしょう。
アメリカの政治経済社会におけるユダヤ系の占める位置づけについてもう少し詳しく知りたかったという点だけ若干の不満がありますが、断片的に得てきたアメリカという国についてのイメージを統合することができる、良著だと思います。
付け加えれば、著者の書く文章はジャーナリストらしい明快な論理展開と簡潔な言葉遣いで、非常に読み易い。
この本は、ブッシュが再選された2004年大統領選の実施前のタイミングで発刊された単行本の文庫化なので、ブッシュ二期目以降の流れまでは含まれていません。
まさに今行われている大統領選についてなど、最新の論評は著者のブログ
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