そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「戦後世界経済史」 猪木武徳

2009-10-13 23:15:40 | Books
戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)
猪木 武徳
中央公論新社

このアイテムの詳細を見る


タイトルの通り、時間的には第二次大戦終戦から現在まで、空間的には米欧、日本、アジア、ソ連(ロシア)・東欧、アフリカ、南米まで全世界をカバーし、経済史を鳥瞰する試み。
著者自身、はじめに断っているように、厳密な通史の形はとっていませんが、わずか350頁ほどの新書で、これだけの広い範囲に亘る経済の変遷のイメージを大掴みできるだけのクオリティがあります。

あまりに対象範囲が広いので感想を書くのもなかなか難しいところですが、特に印象に残ったところをピックアップすると以下2点。

戦後、ソ連・東欧、中国をはじめ、世界中の多くの国・地域で計画経済を運営しようとの試みが実行されたが、全て失敗に終わった。
最終的にはソ連邦解体やベルリンの壁崩壊により終焉を迎えるが、それよりもずっと前の段階で破綻をきたしていた。
その根本的原因は、経済とは本質的に不確実なものであり、中央の計画当局がそれをコントロールすることは不可能であったということに尽きる。
現場の人間しか分かり得ない個別具体的な知識を中央当局は知り得ず、適切な資源配分は不可能となり、配分は政治的に決定される。
現場の個別具体的な知識を「価格」を媒介にして情報流通させるのが「市場」の役割であり、その意味で市場経済は万能ではないものの、計画経済に勝る理由があったのです。

もう一点。

現在、ドルの地位低下、基軸通貨としての資格喪失を論じるのがトレンドとなっています。
米国の、イラク戦争開戦を巡る横暴的な姿勢やサブプライム危機を招いた行き過ぎた金融資本主義に対する批判から、米ドルの地位低下を「ざまあみろ」的に歓迎する空気がどこか漂っている印象があります。
が、こうして歴史を振り返ってみると、戦後復興(とりわけ欧州復興)に果たした米国の役割は多大だった(マーシャルプランなど)。
また、米国は、意図的に適度な輸入超過を作ることで、諸国のドル不足を防ぐという、基軸通貨国としての責任を果たしてきた(もちろんそれを常に完璧にこなしてきたわけではなく、それゆえプレトンウッズ体制は崩れていったわけですが)。
そうした大きな役割を担うことで、米国自身見返りとしての覇権を得てきたわけではありますが、基軸通貨国の責任とはきわめて重いものであり、米国が凋落したとして、その代りを誰が担えるのか?
米国を嗤えば済むという単純なものではないということです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ノーベル賞ってそんなに価値があるものなんだろうか?

2009-10-10 23:20:27 | Society
オバマ政権の負担に?…平和賞で広がる戸惑い(読売新聞) - goo ニュース

ノーベル賞でもアカデミー賞でも芥川賞でも、「賞を獲ったから価値がある」という考え方には個人的には多大な違和感を憶えます。
それって典型的な思考停止なんじゃないかと。

そもそも、その賞が「権威がある」とされる所以はどこにあるのか?
イチローの安打数や打率のように明確な数値で現れない価値を評価するモノである以上、結局は「誰が」「どのように」評価して受賞者を決めているかに帰結するものなのだと思います。

なんでも、ノーベル平和賞はノルウェーの国会が任命した5名の委員が選考しているそうな。
具体的にどんな人物が委員になっているのかは寡聞にして知りませんが、まあ普通に考えて、選考委員の顔ぶれに賞の権威の源泉を求めるのは難しそう。
となると、賞の歴史というか、長年に亘ってこれまでにどんな人物を受賞者に選考してきたのか、に権威の源泉を求めるしかないと思います。
しかし、平和賞のような性格の賞であればなおのこと、政治的立場によって評価が180度異なる人物を選んでいくわけだから、万人が認めるような人物を選考し続けることは困難。
結果、ノーベル賞の他分野に比較しても、価値の安定しづらい賞にならざるを得なくなってしまう。

で、オバマ。
受賞の報を知ったときの第一印象は、なんだかミーハーな選択だな、というものでした。
確かに「核なき世界」への志向を表明したことはエポックメイキングだとは思う。
が、言われているように、まだ何も成し遂げていない段階であるのは事実だし、多少旬は過ぎたとはいえ、アイドル的に扱われ、世界で一番有名な人物であるかもしれないオバマに飛びついてしまうのは、賞の「軽さ」を印象付けるような気がします。
世に知られていないながらも国際平和のために地道な活動をしている人物にスポットを当てる、そんな賞であるべきではないかと。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

意外な一面

2009-10-08 23:18:06 | Politcs
ここのところ亀井ネタばっかりですが。
今日はちょっと違った一面もキャプチャしときたいと思います。

記者クラブに開放断られて 亀井氏「もうひとつの記者会見」断行(J-CASTニュース)

これは英断だと思います。
ガチガチに頭の固いじいさんだと思っていると、こういうところがあるからこの人は掴みづらい。
死刑制度廃止派なのは有名だし、右とか左とか、タカとかハトとか、既成のフレームに収まりきらないところが、不気味なところだし憎み切れない所以なのかもしれない。

ところで、新政権で記者会見オープン化を最初に実行したのは岡田外相ですが、そもそも野党時代に民主党の記者会見を全メディアに解放したのは岡田さんだったそうな。
神保哲生氏の以下記事参照。

記者クラブ問題は民主党政権の本物度を測るバロメーターだ(アゴラ)

政治家の意外な一面といえば、石原都知事について書いた上杉隆氏の以下記事も興味深かったのでリンクを貼っておきます。

五輪招致落選で改めて感じた石原都知事の環境問題への“本気”(ダイヤモンド・オンライン「週刊 上杉隆」)

やっぱり最前線の現場で取材しているジャーナリストの書くものは面白いな。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

家族間殺人は増えているのか

2009-10-06 21:54:16 | Politcs
金融相の大企業批判に苦言=家族間殺人で「言葉に過ぎる」-鳩山首相(時事通信) - goo ニュース

最早ここまでいくと芸人の域ですな。

まともに論評する気も起りませんが、亀井氏の言っている「殺人事件の半分以上が親子兄弟夫婦の殺し。こんな国は日本だけだ。」というのは事実に基づいてるんでしょうかね。
家族間の殺人事件は世間的にも注目を浴びるし、センセーショナルに報道される分、増えているようなイメージはあるかもしれないけど、果たして正確な統計データに照らして増えている事実はあるのか。

仮に事実だとしても、家族間以外の殺人事件が減っている中で割合が増えている可能性もあるし。
日本が異常だと言いたいなら、単位人口当たりの家族間殺人の発生件数を国際比較するのが筋だと思いますがね。
まあこんなこと言っても亀井さんには「つべこべ理屈を言うな!」と怒られそうですが。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「反成長」の帰結

2009-10-04 00:01:58 | Politcs
補正見直し 3兆円届かず 責任押し付け合う経済3閣僚(産経新聞) - goo ニュース

組閣されたときから、国家戦略担当相とか行政刷新担当相とか何だかダブり感があるな、という印象ではあったんですが、まあ案の定混乱は出ているようです。

が、鳩山民主党政権の滑り出しとしては、亀井ちゃんの暴走とか不安はあるものの、割かしいい感じで進んでいるんじゃないか、と個人的には感じてます。
補正予算凍結にしてもダム建設の話にしても、既存のガチガチの仕組みにメスを入れて既得権益を解体していこうというのは正しい方向かと。
経済の話とは直接関連はしないけど、記者クラブ外への記者会見解放についても、実現が危ぶまれたりしたものの、外務省では実現したようだし。

外務省記者会見の開放は、不健全なメディアシステム淘汰への一歩だ(ダイヤモンド・オンライン「週刊 上杉隆」)

亀井ちゃんのモラトリアム法案にしても、補正予算凍結にしても、はたまたCO2の25%削減目標表明にしても、景気を冷やす方向での影響をもたらすのは間違いない。
実際、ここにきて株価も下がっているようだし。
まあでも、「行き過ぎた市場原理主義」を批判して「成長より分配」を指向することで出来上がった3党連立政権なんだから、短期的には景気が浮上しないのもある意味当然。
「反成長主義」の観点で民主党を支持して投票した人は、多少景気が冷えたからといって文句は言えませんな。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

モラトリアム騒動

2009-10-01 23:40:54 | Politcs
返済猶予で意見聴取指示=金融界・中小企業から-金融相(時事通信) - goo ニュース

亀井金融相の暴れっぷりがいろんなところで物議を醸してます。

金融素人の直観的な印象として、返済猶予なんてしてもらっちゃったら自分の会社が危ないことを白状してるのと同じことなんだから、中小企業も喜んで申請したくないんじゃないの?って気がしてたんですが、isologueさんでそんなような趣旨の議論がされていました。

亀井大臣の「モラトリアム」は実はあんまり使われないんじゃないか?

亀井氏はモラトリアムで黒字倒産を防ぐことを意図しているのでは、との話もあるようですが、銀行の貸し剥し・貸し渋りで黒字倒産するような実態って実際どんだけあるんですかね?
黒字か赤字かはともかく、苦境にあっても甦る可能性のある企業が貸し剥がし・貸し渋りで潰れるのは許せない、という使命感を持っているのは間違いなさそうですが、その企業がまだまだ甦えることができるのか潰れるしかないのかなんて、政治がいくら頑張ったところで適正な線引きなんてできるわけがないのでは。
結局、融資の最前線の現場にいる貸す側と借りる側が一番正確な情報を持っているわけで、もちろんそれだって完璧な判断ができるわけじゃなく間違いは起こるんでしょうけど、それを最適に近づけるのはやっぱり市場や競争のメカニズムしかないんだろうと思います。

まあ、亀井さんは「市場」とか「競争」とかいうのが大嫌いだからこそ、ああいうことを言ってるんでしょうけどね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする