2005年から2008年まで日本経済新聞の那覇支局長を務めた著者(現在は社会部デスク)が、本土人として沖縄に暮らし記者生活を送る中で見聞き知ることとなった、一般に信じられているイメージとは異なる沖縄の現実。
これを読めば、今まさに問題となっている普天間基地の移設問題も、まったく違うものに見えてきます。
何より、衝撃的に沖縄への見方を変えられたのは、沖縄における「革新」と「保守」の在り様。
「格差社会」である沖縄において、相対的に所得の高い公務員や学者、マスコミなどの知識層が革新系を支持し、建設・土木や観光・サービス業などの低所得の民間が保守系を支持する構図があるとのこと。
しかし、彼らの間にイデオロギー面での対立があるわけではない。
本の中で紹介されている、元沖縄大衆党書記長・比嘉良彦氏による解説が簡潔にまとまっています(以下引用、74頁-75頁)。
「本来、沖縄の保守と革新の間にイデオロギー対立はありません。何が違うかというと、革新は理想論を主張し、保守が現実論を言う。そして沖縄全体で政府から振興策を引き出す役割分担が続いてきました。1972年の本土復帰も、運動を主導したのは教員ら官公労です。『本土並み』を目指して公務員の給料は、ほぼ本土並みになりました。復帰で一番恵まれたのが公務員だったのです。公務員は県内の勝ち組になり、同時に革新勢力の担い手でもありました。」
さらにショッキングなのは、著者が実際に取材するなかで体験した以下のエピソード。
沖縄における革新と保守がイデオロギーではなく、役割分担だということがよくわかります(以下引用、193頁-194頁)。
沖縄に赴任して驚いたことはたくさんありますが、その一つはあまりにもセレモニー然とした反基地の抗議行動です。例えば、普天間基地の県内移設に抗議するため、市民団体が県庁を訪ねる、といったことがよくあります。私も赴任した当初は、こうした日常的な抗議行動も取材に行っていました。ところが、何回か行くとわかるのですが、だいたい抗議するメンバーは同じ顔ぶれで、対応する職員も顔なじみです。お互い談笑したりして緊張感はまるでありません。
ところが、いざ抗議文を手渡す場面になり、テレビカメラが回りだすと「あんたねえ、沖縄の心がわかっているのかあ」みたいなことを大声で言い出し、職員サイドも神妙な顔つきに変わり「米軍にしっかり伝えます」などとうやうやしく受け取るのです。
お互いに決められたセリフをしゃべっている感じで、ドラマの撮影現場に居合わせているような錯覚にとらわれ、私は思わず「カーット」と言って茶化したい衝動に耐える努力が必要でした。わずか数分の抗議が終わると、市民団体の代表者は「あんなんでよかったかね」とか照れくさそうに言い、職員の方も「いい感じでしたよ」などと応じています。そして、抗議する方とされる方の緊張感のなさ以上に私が驚いたのは、それを取材しているマスコミの様子です。反対派にも当局にも質問することもなく、毎度おなじみのセリフのようなやり取りをメモし、抗議場面が撮れたらさっさと引き上げてしまうのです。
結局、沖縄における反基地運動とは、普遍的な平和や反戦を求めるものではなく、被害者沖縄を理解せよと、加害者たる日本政府に対して抗議する性質のものであるとのこと。
ただ、これを茶番だと切って捨てればよいかといえばそういうものでもない。
沖縄における米軍基地の駐留負担が突出しているのは事実だし、過去において日本政府が沖縄を捨て石としてきた歴史があるのも確か。
そのような負い目があるからこそ、それを振興策という形で日本政府は沖縄に対して償ってきた。
一方で、その手厚い振興策に頼り切ってきた沖縄は、援助漬けで自立心を失い、それが沖縄の経済社会における様々な面で悪影響を生ぜしめている。
著者は、沖縄から米軍基地は無くしていくべきだ、それと引き換えに日本政府からの援助も減らして、沖縄は自立していくべきだ、と主張しています。
現在の在沖縄米軍の主力は海兵隊だそうです。
地上戦部隊である海兵隊が沖縄にいる強い理由はない。
また、普天間移設問題にしても、米国の極東における軍事戦略的な意味や、安全保障上の意義があるわけでもない、と。
今現在の普天間問題は、いったん日米間で合意され、米軍の再編成計画にすでに組み込まれた移転先を、民主党政権がこの期に及んでご破算にしようとしているかのような動きをしている点についての米側の不信感という形で現れているわけですが、上記のような視点でみるとまた見え方が違ってくる。
そのあたりのことも小沢一郎は分かった上で動いているのかもしれません(鳩山首相や福島みずほは分かっちゃいないでしょうが)。
この辺はこの本の守備範囲ではないですが、別の機会に勉強してみたいと思います。
沖縄の抱えるあらゆる問題を、沖縄の人の「気質」や、援助漬けによる自立心の欠如に結び付け過ぎのような気もします(特に、経済にかかわる問題は地理的条件とか、もっと他の要素も考慮すべきじゃないかと思う)が、沖縄に対して我々が一般的に抱いているイメージに虚構の部分が多いことを知ることができる、目から鱗の一冊であります。
<追記>
上記において「地上戦部隊である海兵隊が沖縄にいる強い理由はない」と書いた部分については、異なる見解(=沖縄に海兵隊がいることの安全保障上の意義は大きい)も有力のようです。