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久々に臓腑に沁みわたるような読み応えのある小説を読んだ思いがします。
まず状況設定の重厚さが尋常ではない。
発端となる事件の舞台となる南アルプス・北岳の登山道や山麓の情景の描き込みにしても、或いは、警察組織の一筋縄ではいかない人間関係の中で捜査を進める過程の描写にしても、どれだけの取材と準備を下敷きに書かれているのだろうと思わされる厚みがある。
さらに、平成に入って書かれた小説ではあるものの、そこに流れる昭和の香り、どす黒い、昭和の闇の部分が全編から立ち上っているのがまた堪らない。
ミステリではあるものの、仮に結末を知って読んだとしてもこの読み応えは変わらない気がします。
個人的に、伊坂幸太郎のようなストーリーテリングの巧みさだけで引っ張る薄っぺらいミステリは評価する気になれないのですが、この小説はそれと対極にある。
今回読んだ文庫版は、当初の単行本版から全面改訂されており、ネットで両方読んだ方の感想をいくつか読んだところでも、登場人物の印象などにかなり相違が生まれているとのこと。
単行本版もぜひとも読んでみたいと思わせられます。
ところどころ冗長な心理描写があったり、主人公の同僚刑事のニックネームがアナクロだったり、少々首をかしげるところがないわけではありませんが、これは文句なしの傑作だと思います。