代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

「花燃ゆ」における史実の歪曲

2015年03月29日 | 長州史観から日本を取り戻す
 大河ドラマの「花燃ゆ」、吉田松陰にしろ久坂玄瑞にしろ、登場人物の描き方が本人たちの実像とあまりにかけ離れているのに興ざめしてしまい、観るのを辞めてしまっていた。温厚で穏やかな様子の伊勢谷友介さん演じる松陰。ファナティックでエキセントリックな本人の実像からあまりにも乖離していて、「これじゃ本人に失礼でしょ」という印象しか持たない。

 安倍首相をヨイショしようという意図があるのかないのか知らないが、「過激な長州」のイメージを払拭しようと、恋愛ドラマ、学園ドラマ化して毒気を抜こうと必死なのだろう。それにしても、あまりにも事実を曲げすぎている。安倍首相でも「あれは本当の松陰先生の姿じゃない」と怒るのではないだろうか。

 佐久間象山もスルーされた。後に品川弥二郎、山田顕義、久坂玄瑞ら松陰の弟子たちが、松陰の恩師である佐久間象山を暗殺することになるので、さすがに松下村塾一党を美化する(=明治維新を美化する)というドラマの目的からすれば、直視するに耐えない不都合な事実である。スルーされるのも予想できたことだった。

 まあ、ドラマであるから、登場人物が脚色されていたり、重要人物をスルーするというのは仕方のないことだと思う。ドラマを分かりやすく面白くするためだ。

 しかし、当時の政権担当者が史実と違っているというのは、いくらなんでも許されてはならないと思う。たまたま先週と今週の花燃ゆを観ていたら、当時老中でないはずの人物が老中にされていた。これはいくらなんでも大河ドラマとしてやってはいけないことだ。

 大老井伊直弼と日米条約の調印について話し合っているのが「老中・間部詮勝(越前鯖江藩主)」となっていた。後に松陰が暗殺計画を立てるのが間部詮勝なのだが、日米条約交渉の段階では、間部はまだ老中ではない。ノベライズ版の「花燃ゆ」では、井伊と条約調印について談合していたのは正しく松平忠固(上田藩主)となっていた。ところがドラマでは、松平忠固は出てこない。

 間部は、条約調印直後に井伊大老が松平忠固と堀田正睦を老中から罷免し(これが安政の大獄の最初の弾圧である)、その後任として老中に抜擢された。だから条約調印について責任を持つ立場ではなかったのだ。いくらなんでも、条約交渉当時に閣僚でなかった人物を閣僚として描くのは、時代考証的に許される一線を超えてしまっている。
 
 後世のドラマにおいて、第三次小泉純一郎内閣の官房長官は安倍晋三でなくて例えば石破茂だったと描かれたとしたら、首相はどう思うどうだろうか? 

 ちなみに開国派の筆頭である松平忠固は、じつは佐久間象山と吉田松陰を助けようと腐心していた老中であり、松陰は内心彼を尊敬していた。以下の記事参照。

 http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/f7fa3d1f52cdb3a7973d11a2dfbd1a80

 松陰が糾弾した条約調印の責任者が、じつは松陰を助けようと腐心していたという事実は長州史観にとっては不都合なのだろう。

 さて、次回は松陰が間部詮勝の暗殺を企てる回であるが、このテロ計画はどのように脚色・美化されるのであろうか?

 

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6 コメント

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はじめまして (立左)
2015-04-02 19:04:29
はじめまして こちらのブログを時々拝見しております。
松代藩や幕末の歴史が興味あります。
今年の大河ドラマに佐久間象山が登場しないのはがっかりしました。
上田藩主の松平忠固については、こちらのブログで知りました。 そこで図書館で松陰全集を読んで確かめました。松陰の元を上田藩士が訪れていたのですね。
松代の象山を訪ねた人たちは、上田藩士の所を訪ねたあとに象山に会いに行ってますね。
松平忠固や赤松小三郎などはあまり世に知られていないのは残念ですね。 
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立左さま ()
2015-04-07 15:23:14
立左さま
 はじめまして。コメントありがとうございました。
 『吉田松陰全集』にまでわざわざ当たって下さってありがとうございました。

 松陰全集に、松陰が「上田候」(=老中・松平忠固のこと)と書いているのを、誤って松代藩主の真田幸教と注釈してあったでしょう。
 上田だから真田とはなんとも間抜けな間違いで、思わず失笑してしまいます。
 編集者が「上田候」を真田幸教と解釈して読んでいたとすると、松陰が何を言わんとしていたのかチンプンカンプンだったはずです。その解釈を踏襲して読んだ歴史学者も、事の重大性が全く分からず、チンプンカンプンだったのかも知れません。

 だから松平忠固は無視され続けたのでしょうか? いや、本質的には松平忠固の事績を評価することは、「明治維新正統史観」にとって都合が悪いから無視され続けるのだと思います。赤松小三郎が無視されるのも同様の理由です。

 最近ようやく歴史書にも、松平忠固や赤松小三郎が少しづつ登場するようになっています。私にできることは地道にブログに書き続けるくらいのことですが、頑張りたいと思います。
 
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ちょっと脱線しますが (りくにす)
2015-04-07 22:28:05
先週(4月2日)の「英雄たちの選択」は坂本龍馬でした。
最近あちこちで「坂本龍馬の秘密とその資金源」の資料を宣伝する広告を目にします。坂本龍馬のイメージがジャーディン・マセソンとか三菱に結び付けられることを恐れていたのでしょうか。

番組の中の龍馬は大規模な内戦で国力が損なわれるのを恐れていて、民主政治の先駆者であったとされています。もちろん資金源の話もありません。
そして代議制のアイデアをあたかも龍馬オリジナルのように描いています。もしオリジナルであれば、提案された人はそれを理解できるのでしょうか。
「身分や出身に関わらず政治に参加しなければならない」という考えは案外広く伝わっていて、ひょっとすると岩倉具視も少しかじっていたかもしれません。
番組では「最近発見された、船中八策の前文」が遺墨集の形で発見されたことを紹介していましたが、オリジナルには「上田の赤松氏が云々」と書いてあったり…妄想です。そうすると間に挟まるのは勝海舟、でしょうか。
しかるべき時にしかるべき人物に会ってしかるべき提案をするのが龍馬の価値なのですから独創性はどうでもいい気がします。また、龍馬が私的ボディガードの梅吉とか近江屋の主人にも参政権を与えようと考えていたかも疑問です。

>松代藩主の真田幸教
「会津の上杉」というのも見たことがあります。幕末なのに。どうやら関が原を中心に扱うライターさんのようです。
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龍馬の代議制は由利公正から? ()
2015-04-12 09:08:13
りくにす様

 最近テレビを全く見なくなっており、「英雄たちの選択」坂本龍馬も知らなかったです。「慶応3年6月の船中八策」はフィクションである」というのは、歴史学的には定説になりつつあるようですが、NHKとしてはあくまで実際に「船中八策」があったという神話に固執していたのでしょうか。それを許しているのでしたら、礒田道史さんにもちょっと問題ありですね。
 私は、慶応3年6月の船中八策はフィクションで、慶応3年11月の新政府綱領八策は、龍馬が福井に行ったさいに由利公正と討議してまとめたものだと思っています。 
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花燃ゆ (ろく)
2015-04-12 16:09:43
佐久間象山の足元に住んでいる者です。桜が満開で花もゆです。
象山神社の境内に高義亭が移築されていますが、そこの説明文に久坂玄蕊、高杉晋作 他が訪れ時勢を論じたとあります。
「花燃ゆ」に象山が出てくると思ったが、なぜか出てきません。「八重の桜」ではNHKが高義亭に取材にきていました。
2015年4月11日の「週刊長野」の象山余聞に『久坂玄瑞が象山暗殺の指嗾(しそう・そそのかす)説がある』とかいてありました。
そういうことは知らなかったので、なるほど「花燃ゆ」には出てこないのかと思いました。
むかし「花の生涯」を見ましたが当時はよくわかりませんでした。
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高義亭から久坂玄瑞の肖像を外すべき ()
2015-04-12 17:11:15
ろく様

 はじめまして。
 私も信州人ですから、高義亭には足を運んでおります。
 思うのですが、高義亭に飾ってある久坂玄瑞の肖像画は外すべきだと思います。あれでは象山が浮かばれないと思います。

 象山暗殺の真相に関しては、以前、このブログでも論じておきました。以下です。

http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/ab677efd1c645a29050a1d7ab788a55f
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/88eebcfa9eb66e7bfa3229b3088cb1db
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/49dccce7658e1472001bfa121b1202dc
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